汚部屋

オカメ颯記

汚部屋

姉の部屋を訪れるのは憂鬱だった。

扉を開ける前から、汚臭が漂ってくるような気がする。

僕は恐る恐る扉を開けた。


うん、今日は臭わない。


間を置かずに訪れたのがよかったらしい。僕はほっとして、それでも手にした消臭スプレーで匂い消しをした。


夏でなくてよかった。


あの汚らわしい黒い虫に遭遇しないだけでもいくぶんましな気分になる。


あいかわらず、扉の前にゴミ袋が積んであった。今日はそれでも、ゴミの隙間を抜けて入らずに済むだけましだ。

僕はとりあえず玄関の空間を広げた。

リサイクルの精神などどこへいったのだろう。何でもかんでも詰め込んだゴミ袋から割りばしが付きだしていた。気を付けないと……

僕は恐る恐るリビングに通じる廊下を歩く。


いつものように混とんとした部屋だ。どこに何があるのかわからない。

でも。僕はどこから掃除しようかと考えながら、思う。

前に何か月か訪問をさぼった時の惨状に比べれば、ましだ。


姉は留守しているようだ。

いつも、そこだけ掃除してある窓際に姿がない。

代わりに小さな人形が寂しそうに外を向いていた。

僕は人形の頭を室内に向ける。


おまえのご主人様がもっときれい好きだったらいいのに。


そう、その外観と顔だけ見たら、姉はそのあたりのアイドルよりもかわいらしい。

彼女が独りで窓際にうずくまるようにして座っていると、どこかの雑誌に載っていそうな美少女の絵が完成する。

背景にゴミが映っていなければ、の話だけれど。


美人で、頭もよくて、なおかつ仕事もできる。

一族の中でもぴか一の能力を持つといわれているのに。

なのに、なぜ、こんな汚いところに平気で住めるのか。


一族の異能はまともなものには宿らない、とはよく言ったものだ。


彼らの能力をうらやましがったこともあったが、今はなくてよかったと思っている。

僕のように、狩りができないものは一族としては失格だが、一般人としては十分合格だ。すくなくとも、掃除の方法を知っている。


あら、また来たの?


ふいに、姉の残した人形が口を開いた。


今日は私は戻らないわよ。適当にご飯を作っておいて。


僕はご飯係ではない、と言い返しながら、今日の夕食を考え始めた僕。

どこまでも僕は彼女の下僕だ。



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汚部屋 オカメ颯記 @okamekana001

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