最後のメッセージ
和辻義一
戻せない刻(とき)
らしい、というのは今日初めて、真奈の死を
真奈とは小学生の頃からの付き合いで、昔はよく一緒に遊んだ。そのまま中学、高校と同じ学校に通っていたのだが、高二の夏頃から病気で入院していたことは知っていた。
真奈が入院した時、その病名までは聞いていなかった。ただ、治療が難しい病気で、しばらくの間は退院出来る見込みがなさそうだということだけを聞いていた。付き合いが長いと言っても、高校に入る頃には「会えば少し話をする」といった程度の間柄だったため、半ば友人代表のような形で見舞いに行ったのは、せいぜい二、三回ぐらいだった。
そのうちこっちも受験勉強が忙しくなり、真奈のことを気に掛けている余裕がなくなった。その頃はまだLineでのやり取りぐらいはしていたし、真奈からも「受験勉強が大変だろうから」と、わざわざ見舞いには来なくて良いと言われていた。だから、俺はその言葉を鵜呑みにして真奈に会いに行くこともなく、ただひたすら受験勉強に取り組んだ。
一度目の大学受験に失敗した時には、真奈はLineで色々と話を聞いてくれた。ただ、その頃には「最近体調が思わしくないから」と、直接会う事は避けられていた。直接会いたくないと言われているのに、病室へと押しかける訳にもいかず、浪人生一年目を迎えた俺は時々思い出したかのように真奈とLineのやり取りをしながら、二度目の受験勉強に追われた。
再び大学受験に失敗した時には、どん底まで落ち込んだ。高校時代の友人はそれぞれ既に進学していて、二年目の浪人生活を迎えるのは俺一人だけ。愚痴や泣き言を聞いて貰える相手もおらず、当時はかなりすさんだ日々を送っていた。
そんな時、突然真奈からLineメッセージが送られてきた。最初は返信するのも
ただ、その時のメッセージのいずれもが短い文章ばかりだったことで、あろうことか俺は真奈に勘違いの八つ当たりをしてしまった。真奈の短いメッセージの数々が、本当は俺のことになど全く興味が無く、だんだんと適当にあしらっているだけのように見えてきたからだった。そのように受け取ってしまうぐらいに、その時の俺は心に余裕が無かった。
それから何度か真奈からのLineメッセージの着信があったが、いずれも無視して、そのままアカウントをブロックしてしまった。それ以降、真奈とのやり取りは全く無いままに今日へと至っていた。
今日うちに来たのは、高校時代の真奈の女友達だった。俺にとっては全く面識の無かったその女友達は相当に不機嫌な表情で、うちへ来るなり真奈が死んだことをぶっきらぼうに俺へと伝えた後、「これ、真奈からの預かり物」とだけ言って、一通の封筒を残して去っていった。こちらから彼女に聞けたことは、真奈の死因についてだけだった。
あまりにも突然の話だったので、こっちも色々と混乱していた。そんな中、自室へと戻って封筒を開けてみたところ、出てきたのは四枚の
その四枚には大きくてぐちゃぐちゃに震えた、かろうじて判読可能なカタカナで「ガ」「ン」「バ」「レ」とだけ、一枚一文字で書かれていた。
訳が分からないまま、筋萎縮性側索硬化症という病気について調べてみた。その結果、筋萎縮性側索硬化症とは手足や喉、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんとやせていって、力がなくなっていく病気だということが分かった。
病気について知れば知るほどに、今度は俺の頭の中がぐちゃぐちゃになっていった。真奈が俺と直接会いたがらなかったこと、最後のLineメッセージのやり取りの時、そのいずれもが短文だったこと、そして今受け取った手紙の理由が、ようやくはっきりと分かったからだ。
俺は年甲斐も無く、十年ぶりぐらいに大声で泣いた。
最後のメッセージ 和辻義一 @super_zero
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