この転生に抗議します!

淡星怜々

プロローグ

00話『始まりの鐘の音』

 「勇者の力とは、この程度の物なのか? 」


 赤黒い空が覆う荒廃した大地で相対する1人と1匹。しかし、その力の差は歴然としていてもはや「勇者」と呼ばれた男に勝ち目などなかった。男の仲間は既に全滅し、正に万事休すだ。


「少しガッカリだ」


 そう言って勇者に最後のトドメを刺そうとする「魔王」が巨大な魔球を精製すると同時に、それらを包み込むように大きな光の柱が響き渡る鐘の音と共に立ち上がった。


「へ? 」


 「ぐあああ! 」という叫び声と光の柱が消えると、そこにいたはずの「魔王」は跡形もなく消え去っていて、残された男はただ唖然とするしか無かった。


「大丈夫か? 勇者のえーと……あ、そうそう ギルル・ルクア君」


 隣にいた女の人から耳打ちされていた所を見ると、彼はどうやら「勇者」の名前を知らなかったようだ。


「俺は、レイニィ・ワインデッドだ」


 身長150cm程のスラッとしたフォルムに真ん中で分けられた白髪が良く似合う容姿端麗な彼はレイニィ・ワインデッドと名乗った。


「とにかく助けてくれてありがとう、助かったよ! それにしてもさっきの凄かったな、なんだあれ? 」


 やはり、男は彼の名に聞き覚えはあるのだが一向に思い出せない。


「あーあれは……企業秘密ってやつだ。まぁ言うとすれば、闇属性と魔属性の複合魔法って事だけかな」


 ただでさえその力が強すぎて魔法制御が難しいと言われる魔属性に更に発動が難しいと言われる複合魔法ふくごうまほう。しかもあれば更に難しい特殊複合魔法と見る。完全にぶっ壊れている、彼はもはや


 ***


 少し通りがかった魔大陸でまさか勇者が戦ってるなんてな……でも、あの魔物は天災級メザアム最高位の人型白角豚ハッカクオークだよな、人語を操るとか何とかで有名の。勇者であろう人がなんであんなに苦戦してたんだろう。お腹痛かったのかな。


「そんじゃ、気をつけて帰んなよ」


 さっきの魔法は何だと言ってうるさい勇者を置いて先を急ぐことにした。勇者なら1人でもちゃんと国元へ帰れるだろう。


「教えてあげなくて良かったの……? 」


「まぁ一応俺の奥義だからね」


 たった2人で魔大陸を進んでいると、大小様々な厄介事があることが多い。さっきのもその1つに過ぎないのだ。


 

 俺がこの世界に転生してから一体どれほどの月日が流れたのだろうか。しかし、この世界での暮らしが想像以上に楽しいからか元いた世界にあまり未練を感じないのも事実なのである。日々新たな発見ばかりで飽きないこと、そして俺にはこの世界ですべき明確な目標があるからそう思うのかもしれない。


 神々に抗議する――


 転生するにあたり俺が神々に望んだことが何一つ反映されていない。生家も能力も境遇も何もかも。

 もう1回神々と会って絶対文句言ってやるんだ! と意気込んではいるのだが、中々成し得ない。いや、会ってくれるには会ってくれると言ってるんだけど……「転生後の世界でその世界を滅ぼさんとす悪者を倒せたら再び会えるだろう」って抽象的すぎるんだよな。


 転生した世界は中世と言うより近世ヨーロッパの様な綺麗な街並みが並ぶ剣と魔法の世界。ここだけ聞くと、とても良い世界だと思うかもしれないが、とにかくこの世界では争いが絶えない、過去にも未来にも。もう誰が悪者なのかわかったもんじゃない。

 

 さて、ここで少しだけ俺がこんな理不尽な世界に転生してしまった経緯を話しておこう。

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