【第52話】本心

「さて、これで最後かな」


 僕たちは圧倒的だった。というか、吉川とソルボンが。襲ってきた輩は壊滅、残るひとりを置いては。


「た、助けてくれ。殺さないで!」

「それは君次第だよ仮面の魔術師君」

「な、何でも話す!」


 先程までの威勢はどこへやら。怒りを滲ませる吉川に、彼は完全に怯え切っていた。


「では、話してもらおう。魔女は何処にいる?」

「そんなこと知るはずもない! 俺たちは下っ端なんだ、分かるだろ?!」

「分からんな。私たちを殺した後は魔女を殺りに行く計画だっただろう?」

「何故それを……」


 吉川は全てお見通しだった。それがどうしてなのかは僕には分からなかったが、最早彼に嘘は通用しないだろう。


「分かった、全て話そう。死遊軍の部隊は既にここに集結している。魔女を探すのは我らの役目でもあるが、それは後だ」

「何をしようとしている」

「革命だ」

「革命……?」

「ああ、今や多くの政治家が魔術を持つ者へと代わりつつある。まずはこの錆びれた日本をひっくり返す」


 彼の言う革命は世界中の国々でも同じように広がり、既に死遊軍の魔術師の手に堕ちた国もある。それを日本でも、というわけだ。


「ひっくり返してどうするつもりだ?」

「決まっているだろう! 隠されてきた魔術師の地位を上げるのさ! アンタも魔術師のひとりなら分かるはずだ」


 吉川は呆れ返るように首を振り、男の胸ぐらを掴んだ。


「いいや、分からないね。そこまでしてその後はどうする? 同じように人間を虐げるつもりか?」

「そうだ、同じ気持ちを味わせてやるのさ!」

「哀れな」


 男はゆっくりと瞼を閉じた。

 再会も一入ひとしおと言ったところだが、宴をする気分でもなく、疲れた僕たちはとりあえず近くの旅館に一泊することとなった。


「ずっと何処にいたの?!」

「いや、まぁ、それはだな……」


 まるで浮気した旦那に詰め寄る奥さんのような光景だ。是非こちらに飛び火しないことを願うばかりだ。


「私たち大変だったんだから! ねぇ、リュウキくん?!」


 祈りはまたしても届かなかった。


「あはは、ま、まぁそうですね」

「何よそれ?!」


 飛び火程度なら良かったが、大炎上しているではないか。その後も何故か僕にグチグチと文句を垂れ流していたアイだったが、心の底には喜びと恥じらいの感情があった。


「そ、そう言えば。吉川さん、アイさんと出会った時の話聞かせて下さいよ」


 これはかなりの奇策だったようだ。アイは顔を真っ赤に火照らせ、僕の腕をかなりの力でどついた。


「アイ」

「な、何よ!」


 吉川はゆっくりとビール瓶を置くと、アイをの方をじっと見つめた。


「すまなかった。あの後目が覚めた俺は牢獄の中から変身術で脱し、身体が癒えるまで情報集めをしていたんだ」

「情報集め……?」

「ああ、それはまたの機会にする。いずれにせよ、俺のせいで多くの人を犠牲にしてしまったが、お前が無事で本当に安心した」


 大粒の涙が彼女の頬を濡らした。今まで抱えてきた多くの想いが溢れたのだろう。抱き合う2人を残し、僕とソルボンは夜の温泉街を行く宛ても無く歩いた。




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