夫婦水入らず

 飲んで、食べて、踊って。

 思い出に残る、とても楽しい年越しを過ごした僕たち。

 参加してくれたみんなは、誰もが喜んでくれた。もちろん、僕もみんなと楽しい時間を共有できて幸せだった。


 そして、僕たち家族に訪れた幸福な時間は、新年を迎えても続いていた。


「エルネア君が、鼻の下を伸ばしているわ」

「エルネア君が、色魔しきまな顔になっているわ」

「わははっ。仕方がないよね!」


 だって。


 だってね?


 僕の視界の先では、ミストラルたちが気持ち良さそうに湯船に浸かっている。

 そしてなんと、僕も同じ浴場にいるのですから!






 事の発端ほったんは、竜の森の広場で大騒ぎをした翌日のことだった。

 つまり、新年二日目ってことだね。


 僕たち家族は、騒ぎ疲れた身体を癒そうと、王都の実家でのんびりと寛いでいた。

 するとそこへ、王宮から使者が訪ねてきたんだ。


「エルネア様、これを」


 身嗜みだしなみのしっかりした、見るからに上級使用人らしき人物が僕へと手渡した封筒には、一通の手紙と見慣れない大きな金貨が同封されていた。

 僕は、使用人さんにお礼を言いながら、手紙に目を通す。


 とても綺麗な字で、読みやすい。


「ふむふむ、ルドリアードさんからだね」


 あの、飲んだくれのなまけ王子であるルドリアードさんが、読む人のことを配慮したような、こんな美しい字を書くはずがありません。

 きっと、部下か誰かに代筆だいひつさせたんだろうね。

 まあ、その辺はさておき。


 手紙は、新年の挨拶から始まり、年越しの楽しい宴への感謝がつらつらと書かれていた。

 そして文末には、お礼も兼ねて副都の旅館に招待するむねが示されていた。


「でも、急に旅行だなんて……。年末年始は、旅行に来た宿泊のお客さんで満室になっていたりするんじゃない?」

「そこは、ご安心を。王家御用達おうけごようたしの旅館でございますので、問題はございません」

「ああ、妻にユフィとニーナがいるしね」

「はい。それに、ルドリアード殿下のご配慮により、元から貸し切りになっておりますので」

「か、貸し切り!?」


 王家御用達ってことは、超高級旅館だよね?

 新年早々、そんな場所に貸し切りの予約を入れるだなんて……

 恐るべし。王族の権力と財力!


 でもやっぱり、いくら御用達だとはいっても、急には予約なんて取れなかったはずだ。

 ということは、前年から前もって予約していたってことだよね?

 もしかしたら、ルドリアードさんが自分で利用するために、場所を押さえておいたのかもしれない。

 そんな場所を、お礼にと僕たちへ気前よく譲ってくれたルドリアードさんは、ただの酔っ払い王子じゃないね。

 懐の深さは、お酒の壺並みに深いようだ。


 僕は、遠慮なくお礼を受け取ることにした。


「それで、こっちの大きな金貨は?」


 僕だって、金貨くらいは見たことありますよ!

 でも、同封されていた金貨は、出回っている普通の金貨とは意匠いしょうも大きさも違う。もちろん、重さもね。

 ずっしりとした重みのある金貨を手に取り、繁々しげしげと見つめる僕。

 金貨の表面には、アームアード王国の国旗が彫られていた。

 裏面にも、炎の聖剣を持つ人物が彫り込まれている。

 残念ながらリステアの姿ではないけど、勇者で間違いないね。

 もしくは、建国王の姿かな?

 何はともあれ、これまで見たこともない金貨だ。


 すると、使用人さんが金貨のことを教えてくれた。


「そちらは、王家の方々がごく親しい方に贈られる記念貨幣きねんかへいでございます。此度こたびは、そちらの金貨とルドリアード殿下の招待状が旅館をご利用いただく際の証明になります」

「ああ、なるほどね。それじゃあ、旅館の人に金貨と招待状を渡せばいいの?」

「いいえ。金貨は、殿下よりエルネア様へと贈られたものでございますので、どうぞそのまま、ご所有くださいませ。ただ、もしも火急かきゅうで資金が必要になった際には、売却されても良い、と殿下はおっしゃられていました」

「いやいやいや、お金に困ったとしても、絶対に売ったりなんてしませんよ!」


 僕は、王子様からの友情の証を売るような、罰当ばちあたりな男ではありません。

 使用人さんも、ルドリアードさんからの伝言を僕が鵜呑うのみにするなんてことはない、と確信していたようだ。僕が否定する前から、人当たりの良い笑みには僅かな曇りもなかった。


 ともかく。


 僕は改めて、使用人さんにお礼の言葉を伝える。

 使用人さんは、一語一句間違えることなく、僕の感謝の言葉をルドリアードさんに伝えてくれるだろうね。


 わざわざ実家まで出向いてくれた使用人さんを見送ると、僕はもう一度、手紙と金貨に視線を落とす。


 たぶん、ルドリアードさんの招待状だけでも副都の旅館に泊まることはできるんだろうけど。この際に、僕への友情の証として、金貨を贈ってくれたわけだ。


 はっ!

 ま、まさか……


 僕が家族連れで旅館を訪れるということは、ユフィーリアとニーナも行くってことだよね。

 そうしたら、あの二人が旅館で暴走しちゃって……

 大金の火急な入り用って、弁償金べんしょうきんを見越してのことですか!?


 いや、気のせいか。

 気のせいだよね?


 とはいえ、この世にはこんな特別な金貨が存在しているだなんてね。

 まだまだ、世界には僕の知らないことがいっぱいあるね。

 特に、上流社会のこととかは!


 まあ、金貨の存在を知らなかったのは、仕方がないといえば仕方がないのかも。

 だって、双子王女様であるユフィーリアとニーナが妻だったり、第三王女のセフィーナさんとも関係を築いている僕だからさ。王様や王妃様は、あえて僕に金貨を贈る必要なんてない、と判断していたのかもね。


 ミストラルたちを呼んでそんな話をしていたら、ユフィーリアとニーナが妹らしい鋭い意見を口にした。


「違うわ。エルネア君と親友になっておけば、また宴会に招待されるかもという、お兄様の下心だわ」

「違うわ。エルネア君と親友になっておけば、また美味しいお酒が飲めるという、お兄様の私欲だわ」

「なるほど!」


 言われてみると、なんともルドリアードさんらしい考えだね。

 でも、僕もルドリアードさんと仲良くなることは嫌ではない。

 だって、楽しい人だからね。

 それに、こうして旅行を招待してくれるような、太っ腹な人だし。


 そんなこんなで、僕たちは新年早々から副都へと旅行に行くことになった。

 しかも、今回は僕と妻たちだけ、という限られた身内だけ。


 小悪魔な幼女は竜の森の耳長族の村。人の心を読む邪悪な子竜も、幼女と一緒にお泊まり中。

 僕の監視に命を燃やす魔獣たちも、年末年始に色々とあって心労がたたったのか、今回は残念そうに断りを入れてきた。今は、カレンさんに看病されている。

 母さんたちも誘ったんだけど、さすがにゆっくりしたかったみたい。

 それで今回は、僕と愛する妻たちだけ、という珍しい組み合わせになった。


 そして、さらに!

 旅館に到着した僕たちは、衝撃の事実を知る。

 な、ななな、なんと!

 この旅館には、混浴こんよくのお風呂があったのです!!


 王族御用達の貸し切りの旅館に混浴があり、宿泊客は僕と妻たちだけ。

 それなら、利用するしかないよね!






 ということで、現在に至る!


 ひとつだけ残念だったのは、混浴のお湯がにごだということだけ。

 なので、悲しいことに、白濁はくだくのお湯のせいで妻たちの胸元から下は見えません。

 でも、視点を変えれば、それは僕にとって幸運だったのかも?


 だって、男の子ですもの。

 女の人と一緒に、裸でお風呂に入っていたら……

 ねえ?


「エルネア君、お風呂で変なことをしてはいけませんよ?」

「ルイセイネ、変なこととはどんなことかなぁ?」

「はわわっ、エルネア様が指を怪しくうごめかせながら迫ってきますわ」

「ライラさん、逃げてください!」

ぁてぇー」


 ざぶざぶと、白く濁ったお湯をかき分けて、逃げるライラを追う。

 混浴のお風呂はとても大きい。下手をすると、禁領のお屋敷にある大浴場くらいの広さがあるんじゃないかな?

 しかも、奥へ行くほど深くなっていて、最も深い場所では、直立した僕の首くらいまで深さがある。


 なので、こうしてお湯に浸かったままライラを追いかけても、胸元から下を確認することはできない。

 だけど、見えるはずのものが見えないとか、普段は見られないものがちらりと見える、という状況の方が、逆に興奮しちゃうよね!


「ミスト様、お助けくださいませ」


 きゃっきゃと逃げるライラ。

 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているけど、楽しそうに笑顔を浮かべているよ。

 ライラも楽しいんだね!


「ライラ、こっちよ」


 ミストラルが力強くライラの手を引き、白濁の湯船をずんずんと進む。

 僕も両手でお湯をかき分けながら進むけど、水の抵抗によって、思うように前には進まない。

 逃げる乙女たちと、追う僕との距離が広がっていく。


 くっ。

 このままでは、本当に逃げられちゃう。


 だけど、僕には秘策があった!


 空間跳躍を発動させる。

 ざぶんっ、と瞬時に、ミストラルとライラの背後に移動した。

 真後ろに迫った僕の気配に、二人が振り返ろうとする。


「あっ」

「きゃっ」


 次の瞬間、ミストラルとライラが可愛らしい悲鳴をあげた。


「捕まえた!」


 白濁で見えないけど。

 僕は両腕を伸ばして、二人を背後から抱きしめた。


 むにゅっと、小さな手応えが右手に伝わる。

 ぷりんっ、と大きな弾力が左手に伝わってきた。


「エルネア、どこを触っているの!」

「エルネア様……ああんっ」


 見ず知らずの女性には、こんなことはできない。

 でも、ミストラルもライラも、僕の妻ですから。

 そして、同意のもとで一緒に混浴のお風呂に入っているんだからね。


 はい。

 手加減なんてしませんよ?


 僕は、両手に伝わる二種類の感触を堪能たんのうしちゃう。

 普段なら怒るミストラルだけど「駄目よ」とか「いやっ」と言いつつも、力による抵抗なんてしない。

 むしろ、ライラと同じように顔を赤くして、湯船の下で身じろぎをする。

 ライラも、お胸様に触れる僕の手に自分の手を添えつつも、引き剥がそうとする抵抗はしない。


 あああ、なんて幸せなんでしょう。

 これが、夫婦なんですね!


 その時だった。


「ふふふ、捕まえたわ」

「ふふふ、逃さないわ」

「きゃー!」


 ミストラルとライラを捕まえた僕のように。

 僕の背後から、ユフィーリアとニーナが抱きついてきた。

 そして、白いお湯の下で、なまめかしく手を伸ばす先は!


「男の子ね」

「男の子だわ」

「はわ、はわわわっ」


 すけべな男が女性のお胸様を堪能するなら、積極的な女性は男の下半身に興味を持っちゃうよね!


「元気だわ」

たくましいわ」

「ふ、二人とも!」

「ユフィ、ニーナ。貴女たちは何をしているの!?」

「エ、エルネア様。お尻に、その……あ、当たっていますわ」

「ライラ、苦情はユフィとニーナに言って!」

「い、いえ。苦情ではありませんわ」

「ユフィ、ニーナ、それにライラも。三人とも、自重しなさい」

「そう言うミストも、エルネア君のどこに手を伸ばしているのかしら?」

「そう言うミストも、エルネア君のどこに足を絡ませようとしているのかしら?」


 白く濁ったお湯のせいで、水面下で何が行われているのかは見えない。

 だけど、僕もミストラルもライラもユフィーリアもニーナも、夫婦らしく楽しんでいた。


「わ、わたくしはお先に……」


 すると、乗り遅れたルイセイネが少し悲しそうに、湯船から出た。

 さすがに、白濁のお湯から出るときは恥ずかしいのか、布で身体を隠そうとするルイセイネ。

 だけど、見えてしまった。


 長湯で火照った身体。

 お湯を弾く、滑らかな肢体したい

 そして見える、ルイセイネの胸の膨らみと下腹部。

 お湯から出たルイセイネはすぐに布を身体に巻いたけど、濡れた布がルイセイネの全てを透かす。


 あれはあれで、普通よりも興奮しちゃうよね!


「エルネア君が元気さを増したわ」

「エルネア君がみなぎっているわ」

「きゃーっ、恥ずかしいっ」


 誰かが抜け駆けしたわけでもない。そして夫婦だけだから、誰も止める者がいない。

 だから、僕も遠慮なんてしません。


「ふっふっふっ。ルイセイネ、逃げられると思っているのかい?」


 僕は湯船で揉みくちゃしているみんなを連れて、空間跳躍を発動させた。

 もちろん、ルイセイネを襲うために!

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