「沼らせ女」
水曜
第1話
女は沼だ。
俺はこの女の沼にどっぷりはまっている。
『君と、ずっと一緒にいられたら良いね』
スマホの画面越し、蠱惑的にエマヌエラが微笑む。
流れるような金色の髪、豊満な肢体、耳元で囁いてくるようなウイスパーボイス。思わず背筋がぞくりとするような気分だ。
ついに。
ついにようやく。
ついにようやく俺の推しが実装された。
今、注目のソシャゲ『沼クエ』はめでたく一周年を迎えて人気キャラであるエマヌエラが期間限定ガチャに登場したのだ。
エマヌエラは初期からストーリーに登場する謎多き美女だ。
あるときはプレイヤーである主人公の味方となり窮地を救ってくれ。あるときは敵となって我々を絶望のどん底に陥れてくる。
遠ざかったと思えば近づき。
近づいてきたと思えば遠ざかり。
こちらを自由奔放に振り回しては、いつしか誰も彼もが目が離せなくなってしまう。
もちろん、俺もその一人だ。
「絶対に引き当てる!」
これはもう、行くしかない。
気合を入れてガチャのページを開き……そこから地獄の沼の始まりだった。
十連目……はずれ。
二十連目……はずれ。
三十連目……はずれ。
四十連目……はずれ。
五十連目……はずれ。
六十連目……はずれ。
七十連目……はずれ。
八十連目……はずれ。
九十連目……はずれ。
百連目……はずれ。
百十連目……はずれ。
百二十連目……はずれ。
百三十連目……はずれ。
百四十連目……はずれ。
百五十連目……はずれ。
百六十連目……はずれ。
百七十連目……はずれ。
百八十連目……はずれ。
百九十連目……はずれ。
二百連目……はずれ。
二百回ガチャを引いたところで、ガチャを引くためのアイテムが底を尽きた。
迷うことなく俺はカードを使って課金した。
アイテムを即座に補充してガチャを更に引くが。目当てのキャラがでない。
はずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれはずれ……はずれ。
ガチャを引く。
はずれる。
ガチャを引くアイテムがなくなる。
リアルマネーを払ってアイテムを買う。
その繰り返しが永遠と続く。
いつしかスマホを操作する指は震えだし。汗水流して稼いだ貯金が恐るべき速度で溶けていく。
まさに底なしの沼。
そして、費やした額が三百万円を超えたところでその時は来た。
『これでずっと一緒にいられるね』
「よっしゃー!」
最愛の推しが、俺に微笑む。
ようやく手に入れた。長く苦しい戦いだった。もう俺のものだ。絶対に彼女を離しはしない。
数日後。
実は運営側によってエマヌエラの出現確率が不当に操作されていたことが発覚。俺の他にも大金をつぎ込んだプレイヤーが続出しており、詐欺だと裁判所に訴える者も現れて大炎上した。
事態は鎮火する兆しもなく、『沼クエ』はサービスを終了。
俺を沼に落とした女はようやく近づいてきたと思ったら、また遠くへと去っていった。
「沼らせ女」 水曜 @MARUDOKA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます