ぐちゃぐちゃ愚者

橋本洋一

ぐちゃぐちゃ愚者

「あーもう! なんで『ぐちゃぐちゃ』になるんだよ!」


 タカシは絡まったコードを解きほぐしていく。

 世の中にはコードレスな製品がたくさんあるのだが、タカシはあまり好んでいなかった。特にイヤホンがそうだった。音が外に漏れている感覚がしてならなかった。


 だからコードのあるイヤホンやヘッドホン、充電器などを使っているのだけど、こうしてぐちゃぐちゃになってしまう。面倒なことこの上なかった。


 そんなぐちゃぐちゃな生活を続けていると、あることに気づく。

 自分の周りだけではなく、一緒に暮らしている家族や学校の友人のコードが絡まりやすくなっている。

 隣の席の女の子がイライラしながら解いているのを見て、タカシは確信した。


「まさか、俺がぐちゃぐちゃにしているのか?」


 馬鹿な妄想かもしれないが、自覚してしまうと『その能力』は大いに発動してしまう。

 ありとあらゆるコード、いや紐類がぐちゃぐちゃに絡まってしまう。

 最近は自分の髪の毛でさえ、ぐちゃぐちゃになっている。


「こんなクソみたいな能力要るか!」


 そう吐き出しても仕方がない。

 とりあえずタカシは病院に行くことにした。

 どの科にいけばいいのか、分からなかったがとりあえず心療内科を受診した。


「先生、俺は一生、ぐちゃぐちゃしたコードを解きほぐさないといけないのか? 俺だけじゃなくて、周りの人間も巻き込んで?」


 その医者は「確かに他者を巻き込む、いえ、ぐちゃぐちゃにしてしまうのはあなたの特性ですね」と言う。


「珍しい症状ですが、大学病院に紹介状を出します」

「それで解決するんですか?」

「さあ? 大学病院と言っても、あそこは際物ですから」


 医者が書いた診断書には、病名ならぬ特性名が書かれていた。

 『ぐちゃぐちゃ愚者』と。


「ま、コードが絡まる以外は正常なので。ゆっくりと治していきましょう」

「そんなあ……」

「そう言われましても。これ以上絡まないでください」

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ぐちゃぐちゃ愚者 橋本洋一 @hashimotoyoichi

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