ぐちゃぐちゃの達人

七霧 孝平

ぐちゃぐちゃ

「きみ! なんだね、この状況は!」


怒鳴る上司。


そして女性の前には散らばる……どころか、ぐちゃぐちゃになった書類の束。


「す、すみませ~ん」


女性は謝りながら書類を戻そうとするが、ぐちゃぐちゃは戻らない。


それを見ながら、同じ部屋の同僚が呟く。


「〇〇さん、見た目だけなら、優秀そうな美人女性なのになあ。


あの書類、どうやったらああなるんだろう……」


仕方なく同僚たちが書類の束を戻すのであった。



また家では……。


「うう……。レシピの通りに作っていたはずなのに、


今日もこんなになってしまいました……」


夕食を作っていたはずだが、そこにあるおかずはもはや何かもわからない。


まともなのはご飯と、店で最初から調理してあったものだけ。



そんなある日。


「や、やめてください!」


「いいじゃねえかよ、姉ちゃん」


女性は残業で遅くなったため、


普段はあまり通らない裏通りを抜けて帰ろうとした。


しかしそれが裏目だった。


酔っぱらいの男に絡まれてしまったのだ。


「離してっ!」


「うおっ!?」


女性は男を振り払い駆け出す。しかし速度では男が勝っていた。


(追いつかれる!)


そう感じた女性は、落ちていた鉄パイプを拾い、


振り向きざまに男を殴りつけていた。


「がっ!?」


「うわああぁっ!」


女性は過剰とわかりつつも、目を閉じたまま何度も鉄パイプを振り下ろしていた。


そして……


「はあ……はあ……。あれ……?」


女性が目を開ける。男はいない。


それはそうだ。鉄パイプをあれだけ振り下ろしたのだ。


いかに屈強な男でも倒れているだろう。


それに気づき、女性はゆっくりと下を見る。


「え……?」


そこには男はいない。『何か』が落ちているだけ。


何も知らない人が見ると、ただゴミが落ちているだけに見えるかもしれない。


だが女性はその『何か』がわかってしまった。


だって『それ』は数日前に自分が作ったおかずのような


ぐちゃぐちゃな物体だったのだから……。



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ぐちゃぐちゃの達人 七霧 孝平 @kouhei-game

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