108 まだ皆、成長途上
中学3年生の肉体はまだ成長途上。
正樹のように【超早熟】でなければ、時間と共に【年齢補正】や【体格補正】のマイナスは小さくなる。
半年もの時間があれば、尚のこと。
明確な形で数字に表れてきていた。
実際、既に基本ステータスがカンストしている磐城君も、春の大会から秋の大会までの間に最終ステータスが大幅に向上している。
まあ、【衰え知らず】を持ってないから、定期的に目減りする基本ステータスを日々獲得する【経験ポイント】で補填しないといけないけどな。
筋トレ研究部によって最適化されたトレーニングと野球部としての実践練習に大松君と共に励んでいるので、とりあえず今は黒字経営ができている状態だ。
各種【経験ポイント】取得量増加のスキルのおかげでもある。
そんな中で、俺は自分の最終ステータスが怪しくなりそうな気配を感じていた。
と言うのも体の成長が大分鈍ってきていて、そろそろ頭打ちになりそうなのだ。
両親は共に【成長タイプ:マニュアル】だったせいもあってか、そこまで恵まれた体格じゃなかったからな。
2人の子供の俺も日本人の平均ちょい上ぐらいに留まりそうだった。
数値で言えば【体格補正】で4~6%マイナスというところだ。
ちなみに、あーちゃんは俺より小柄で13~15%マイナス。
美海ちゃんはあーちゃんよりは背が高く、11~13%マイナスというところ。
筋肉量のつき方も影響があり、生物学的な性差が数字となって出てきている。
逆に【超晩成】の昇二は高校生になっても多分成長するだろう。
今は美海ちゃんよりほんの少しだけ上というところだが、最終的には俺よりもマイナス補正が小さくなるはずだ。
うまくいけばプラスマイナスゼロにもなるだろう。
「しゅー君、悩みごと?」
「ん? ああ、ちょっとな」
【以心伝心】によって俺の内面の微妙な変化に気づいたらしいあーちゃんの問いかけに、曖昧な感じで答える。
「何か問題でもあった? 明日はもう決勝戦よ?」
と、タイミングがタイミングだけに美海ちゃんが心配そうに尋ねてきた。
今日は正に全国中学生硬式野球選手権大会の全国大会決勝戦前日。
そして俺達がいるのは、今年の開催地である兵庫県の兵庫ブルーヴォルテックスの本拠地球場近くの宿泊施設だ。
全国大会まで来ると待遇がよく、結構いい感じの旅館を用意してくれている。
当然のように全額主催者持ちだ。
今は中々に豪華な夕飯を終え、各々自由に過ごしているところだった。
「いや、試合に不安はないよ。皆、十分な仕上がりだ」
「じゃあ、どうしたのよ」
「成長期、終わっちゃったかなって」
「…………えっと、それ、今考えること?」
美海ちゃんがどこか呆れたような声を出す。
まあ、場違いと言えば場違いだ。
「いや、この半年のデータを振り返ってて、改めて突きつけられた感じでさ」
「あー……」
俺の言い訳に、美海ちゃんは少し納得したようだ。
「けど、それを言ったら、私達なんか去年ぐらいから身長なんて伸びてないわよ」
「……残念」
「ちょっと、どこ見てるのよ」
どこか落ち込んだ様子のあーちゃんの視線は、美海ちゃんの胸に向いている。
美海ちゃん>>>あーちゃんとだけ言っておこう。
尚、陸玖ちゃん先輩>>>美海ちゃんの模様。
それはともかくとして。
WBWに出てくる海外選手達は、ほぼマイナス補正がないと考えていい。
まあ、今までのWBW出場選手レベルだったら、バフ系のスキルをモリモリにすれば最終ステータスで上回ることは十分できたが……。
今現在、大リーグを席巻している新人選手は話が別だ。
入団会見などの映像でステータスを見た限り、レジェンドの魂を持った彼らは取得可能なスキルはほぼほぼ全て持っている。
【体格補正】も当たり前のようにプラスマイナス0%。
そこに、それぞれチート染みた【特殊生得スキル】を持っている。
最終ステータスの格差が半端ない。
せめて【体格補正】ぐらいは差を縮めておきたいところだ。
「……まあ、対格差を埋める方法、ない訳じゃないけど」
「え? どうやるの?」
「いや、ちょっとリスクがあるから今は教えられない」
答えを言ってしまうと、そういうスキルがあるというだけの話だ。
【通常スキル】【全力プレイ】。
【極みスキル】【身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ】。
これらを両方取得すると【体格補正】がプラス5%される。
……しかし、大きなデメリットがある。
それがリスクだ。
だから俺はまだ放置しているし、レジェンド達も取得していない。
具体的なデメリットは、大幅に怪我し易くなってしまうこと。
そして体の成長が阻害されてしまうことだ。
いくら成長が鈍ってきたからと言っても中学生で取得するようなものではない。
俺は片方のデメリットを打ち消すことができる【怪我しない】を持つので、いずれ完全に体の成長がなくなったら取得する気ではいる。
だが、それは今ではない。
「そう……」
答えを聞きたい雰囲気を醸し出しつつも、引き下がる美海ちゃん。
俺がリスクと断言したからには、本当に危ういと感じたのだろう。
「ま、いずれにしても美海ちゃんの言う通り、今考えるようなことじゃない。明日に備えて早めに休もう」
「……そうね」
「じゃあ、また明日」
話を切り上げ、自分の部屋に戻ろうと立ち上がる。
当然ながら男女別でフロアも違う。
しかし――。
「こらこら、一緒に来ちゃ駄目だろ?」
あーちゃんがしれっとついてこようとしていた。
「毎度毎度、バレないと思ってるの?」
そんな彼女に、美海ちゃんが嘆息気味に突っ込む。
対するあーちゃんは、そんなことしてないとばかりに美海ちゃんの隣に戻った。
「この子は、全くもう」
やれやれと首を振る美海ちゃんと、悪びれた様子のないあーちゃんに苦笑する。
仕切り直しだ。
「じゃあ、今度こそ。また明日」
「ん。お休みなさい」
「ええ。明日は頑張りましょうね」
そうして決戦の日が来る。
兵庫ブルーヴォルテックスの本拠地、神戸エメラルド球場に役者が揃った。
山形県立向上冠中学高等学校中学野球部。
東京プレスギガンテスジュニアユースチーム。
この2チームによる全国中学生硬式野球選手権大会全国大会決勝戦。
その火蓋が今正に切って落とされようとしていた。
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