095 実戦は練習の場①
高校チームが華々しく初勝利を飾ってから数日後。
初戦を次の土曜日に控えた俺達は、放課後のグラウンドで最終調整をしていた。
「さて、と。今度は俺達の番だな」
「秀治郎君が投げれば勝ったも同然よね」
「いや、まあ、それはそうなんだけどさ」
【衰え知らず】のおかげで俺のステータスは低下せずカンストしたまま。
その上で【体格補正】と【年齢補正】によるマイナス幅も以前に比べると小さくなったので、今や球速は140km/hに到達している。
更には決め球に使えるレベルの変化球を多数身につけている。
それを問題なく捕ることができる
【戦績】から相手打者の苦手なコースもある程度読み取ることができる。
この状態でシード権を持たない1回戦のチームに負けるなんてことは、たとえ天地が引っ繰り返ってもあり得ないと言っても過言ではないレベルだ。
増長ではなく、もはや単純な事実として。
「正直なところ、普通に試合するだけじゃ学びが少ないんだよな」
最終目標はあくまでもWBWだ。
そこで俺達はレジェンドを擁したアメリカ代表チームに勝たなければならない。
そのためには、ただ漫然と試合をしていても仕方がない。
試合の中でも成長できるように色々考える必要がある。
「いっそのこと、コールド勝ちで時短すればいいんじゃない?」
「そうは言っても、制度上どうあっても4回まではかかるしな。大量得点しないといけないし……余り目立ちたくもないんだよ」
シニアやジュニアユースの大会と同じく、今大会は4回10点差コールド制だ。
だが、何も考えずに適当に戦うと10点差どころではなくなるだろう。
地方大会とは言え、派手にやると目をつけられてしまいかねない。
警戒し過ぎかもしれないが、研究される危険性は抑えておきたいところだ。
勝つにしてもギリギリのところを攻めたい。
「じゃあ、どうするの?」
「とりあえず、試合は主に実戦的な守備練習の機会と捉える」
「守備練習?」
「そう。俺が可能な限り打たせて取るピッチングをするから、公式戦の空気感の中でいつも通りの動きができるように皆で練習するんだ」
高校生チームの試合も打撃で圧倒したのと、要所要所でピッチャーがしっかり抑えてくれたのでコールド勝ちできたが、さすがに守備は少々おぼつかなかった。
こればかりは数をこなして慣れていく以外にない。
練習もそうだが、公式戦の緊張感の中で経験を積むのが肝要だ。
「バッティングは?」
「それぞれ課題を持ってやる感じかな。打つ方向を限定したり、配球を読んで決め打ちしてみたり。後は基本単打狙いで、走塁練習をするのもいいかもしれない」
「私が言うのも何だけど、大丈夫? そこまでするとさすがに足下掬われない?」
「もし危なくなったとしても、しゅー君とわたしなら十分立て直せる。みなみー達がいるなら尚のこと問題ない」
美海ちゃんの問いかけに、隣にいたあーちゃんが俺の代わりに淡々と答える。
実際、俺も敗北の心配は全くしていない。
野球の勝敗というものは単純だ。
自チームが取った点数よりも敵チームの点数を低く抑えれば勝てる。
敵チームが取った点数よりも自チームが多く点数を取れば勝てる。
投手として、打者として、圧倒的な力があればコントロールすることができる。
万が一にも雲行きが怪しくなるようなことがあれば、練習として試合を利用するのをやめてしまえばいい。
それだけのことだ。
「それ、他の皆には?」
「伝えるのは試合の直前かな。高校生チームの方とは違って俺達の方は戦力的に大分余裕があるし、ちょっと精神的に揺さぶりたい」
「……嫌らしいわね」
「けど、必要なことだろ?」
「それはそうだろうけどね」
本当なら俺達もどこかで真剣勝負の緊張感を味わうべきだ。
美海ちゃん達には高校になってから存分に経験して貰うつもりでいるけれども。
反面、俺自身はしばらくの間は難しそうだ。
これまで真剣勝負ができた相手と言えば、小学校の時の正樹ぐらいのもの。
現時点での最終ステータスは当時よりも高く、既に高校の全国レベルはある。
それこそ上の世代と戦うぐらいじゃないと、そうそう緊張感は生まれない。
けれど、上の世代相手だと真剣勝負の場を整えるのがネックだ。
勝利が絶対条件となるようなシチュエーション。
それには同世代で、と言うか、同じ舞台に立って戦う必要があるけれども……。
そういう状況に直面するのはもっともっと先の話になってしまうだろう。
こればかりは何か別の方法を考えた方がよさそうだ。
「ともかく、折角の公式戦だ。無駄にしないように戦おう」
「1回戦の相手ってどこだっけ?」
「山形県立第伍中学校。……まあ、申し訳ないけど弱い。毎年1回戦突破を目標にしているような中学校だ」
ここに関しても、プロ野球個人成績同好会とアマチュア野球愛好会に情報を収集して貰って既に分析している。
ステータスは全体的に成績相応といったところ。
中学生かつ弱小校の低ステータスだけにトレーニング次第では急成長している可能性もなくはないが、あくまでも中学生。
元が元だけに高が知れている。
高校生チームに続いて、サクッとノルマを達成しよう
「本番は練習のように。頑張ろう」
「……それ。間違いなく誤用よね」
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