061 仲間候補(中学生編)
「ねーねー、部活決めた?」
「まだ。ピンと来るとこがなくてさ」
「右に同じです」
「私もー、どーしよっかー」
休み時間。
耳に届いてきた会話は、昇二の席を囲む女子生徒達のもの。
どの部活に入部するか、仲よく相談しているようだ。
この学校の生徒は基本的にどこかの部に所属する必要がある。
幽霊部員はたくさんいても、純然たる帰宅部は1人もいない。
入部期限がまだ先なので、今この期間にのみ未所属の生徒がいる形だ。
ちなみに解禁日に即決した俺達のような人間はクラスの半分程度。
残りの半分はまだ情報収集をしている様子だ。
……当然ながら、部活にもそれぞれ特色というものがある。
活発に活動している部に幽霊部員志望が入部しても双方にとってよくない。
逆もまた然り。
新しい環境で心機一転頑張りたいと思っている新入生が、開店休業状態の部活に入っても残念なことになるだけだ。
だから、慎重に見極めようとしている子も少なくはないだろう。
部活紹介は一応あったけど、結局そこではいいところしか言わないからな。
「けど、そろそろ俺も動かないとな」
「仲間の勧誘?」
俺の独り言に、後ろの席から美海ちゃんが確認するように尋ねてくる。
「ああ。さすがに入部した後だとちょっと面倒臭いからな」
別に引き抜きが禁止されている訳ではない。
けど、当然ながらハードルは上がる。
特に今は決め打ちで入部した子ばっかりだからな。
未所属の子を誘った方が難易度が低いのは間違いない。
勿論、鋼の意思で幽霊部員になろうとしている子は無理だろうけど。
「で、誰か有力な候補はいるの?」
「とりあえずクラスメイトだと2人だな」
単に気になる子であれば、他にも何人かいるけど。
例えば昇二の周りの4人なんかも、珍しい【生得スキル】を持っていたりする。
が、打倒アメリカまで考えると2人に絞られる。
「誰と誰?」
「まず、あそこにいる
「…………他に比べるとマシな方だけど、ひょろいわね」
「いや、それは仕方ないって」
【成長タイプ:マニュアル】だからな。
【Total Vitality】が上がらない以上、筋トレをする体力もたかが知れている。
筋肉がついたとしてもステータスに関係のないハリボテ。
負荷を上げることも難しい。
ガタイがよくなる道理がない。
ただ、身体能力が低いなりに頑張ってきたのは【経験ポイント】で分かる。
こういう子は報われて欲しいと思う。真剣に。
反面、打算もある。
保有している【経験ポイント】の量以上に目を引くものがあった。
【生得スキル】【天才】と【模倣】。
名前からして既にチートの匂いがする。
【天才】
『ステータス上昇やスキル取得に必要な【経験ポイント】が2割減少する』
【模倣】
『周囲の人間が持つスキルを稀に【経験ポイント】を消費せずに取得できる』
さすがは【生得スキル】。破格の能力だ。
……まあ、この学校に入学してる以上、有効活用できなかったんだろうけど。
【成長タイプ:マニュアル】だと【マニュアル操作】なくして【天才】は無意味。
【模倣】も周りにスキルを持つ人間がいなければ効果がないからな。
しかし、俺という存在が傍にいると確実にぶっ壊れスキルに変わる。
是非とも仲間にしたい人材だ。
幸いにして彼はまだ入部先を悩んでいる様子。
プロ野球珍プレー愛好会に入る目はあるだろう。
「ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫。確実に、チームに不可欠な選手になる」
不審げな美海ちゃんにキッパリと断言する。
俺の見立て……と言うより、ステータスは嘘をつかない。
無難に育てるだけでアメリカ戦の主力になれるだろう。
「もう1人は?」
「もう1人は、あそこの大松勝次君」
「……ふーん」
そこまで期待していない感じの声に苦笑する。
彼は【生得スキル】を持たない【成長タイプ:マニュアル】だ。
【Total Vitality】に寄ったステータスになっている。
入部先を迷っている感じではないが、何故かまだどこにも所属していない。
ちょっと観察したところ、昇二の席を囲む4人を常に気にしている。
自己紹介で聞いた限り、彼女達と同じ小学校のようだが……。
もしかするとあの中の誰かに気があるのかもしれない。
「けど、その2人を入れても6人よね?」
「一応、陸玖ちゃん先輩もいるけどな」
「私達が高校3年生になる時には卒業しちゃってるじゃない」
「まあ、それはそう」
可能な限り、同学年で9人揃えたいところではある。
練習環境が強豪より劣るのは間違いないからな。
ここで新たに仲間になる子達は、中学1年生から高校3年生まで鍛えて初めて試合で十分戦力になる、というぐらいだと思う。
なので、当面は高校3年生の夏に照準を合わせている。
「他は?」
「他は別のクラスで何人か。どう接触すればいいか考え中だ」
全く接点のないところにいきなり勧誘に行っても「怖っ」ってなるだけだ。
その辺は陸玖ちゃん先輩にヘルプを頼む必要があるかもしれない。
「…………まあ、手伝えることがあったら言ってよ? 私も仲間なんだから」
「勿論、わたしも」
横から自分の存在をアピールするあーちゃん。
会話に参加していなかったが、彼女は
一体あの子達はどういう関係なんだろう的な視線もあるが、素知らぬ顔だ。
俺も特に気にしていない。
今更他人の目を気にして関係を隠すような間柄じゃない。
距離感も加奈さん判定でセーフだろうしな。
「むしろ、しゅー君にたくさん頼って欲しい」
「うん。ありがとう、あーちゃん。美海ちゃんも」
「ん」
「はいはい。どういたしまして」
あーちゃんは嬉しそうに微笑み、美海ちゃんは少し照れ臭そうに顔を背ける。
6年以上の時間が作る気安さは居心地がよく、自然と表情も和らぐ。
けど、こうなると視界の端で身動きができずにいる昇二がやっぱり可哀想だな。
彼自身が女子生徒達に過剰に気を遣い、自縄自縛気味になってる感もあるけど。
こればかりは昇二が開き直るか、席替えをしないとどうしようもない。
一先ず
「じゃあ、昼ご飯を食べたら皆で勧誘に行こう」
「ん」
「ええ」
勿論、昇二も一緒に、な。
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