033 国際大会の絶望とラスボス達
まるで息をすることすら忘れてしまったかのような静けさ。
教室はお通夜の様相を呈していた。
それと言うのも、生活の授業中にU12ワールドカップの日本代表対アメリカ代表の試合の生中継を見ていたからだ。
「せ、せんぱいが……ぜんぜん打てないなんて……」
清原孝則が呆然と呟く。
同じ野球チーム所属で、U12日本代表に選ばれたという先輩。
彼はなす術もなく3球三振に倒れていた。
2打席連続で。
次の打席でリベンジを、という希望は逆立ちしても叶わない。
何故ならば――。
『U12日本代表、アメリカ代表にコールド負けを喫しました』
『……敗北は、想定していました。ですが、まさかこのような結果になるとは思いもしませんでした』
負けに慣れた実況と解説員も、愕然としてしまっている。
4回コールド負け。そこまでは可能性として想像できていたのだろう。
しかし、12者連続3球三振の完全試合。
45対0の大敗。
「これは……エグいな」
アメリカ代表の攻撃機会は3回だけだったから、1回平均15点。
打者一巡どころじゃない。
試合のほとんどの時間はアメリカの攻撃だった。
2回の途中から攻撃陣の主力を下げていなかったら、まだ熱い死体蹴りが続いていたかもしれない。
笑い話にもできない。
子供相手だと惨いばかりだ。
今回の日本代表の子達。
トラウマを植えつけられてなければいいけど。
さすがに心配だ。
攻撃も、平均140km/hの球に手も足も出てなかったからな。
「日本一のチームがこんなまけ方するなんて……」
後ろの席で美海ちゃんが呟く。
まあ、彼らはあくまで世代の日本一だけどな。
しかし、今回の
【年齢補正】と【体格補正】を考慮して尚、U15やU18でも今すぐ代表を張れそうなレベルの選手がゴロゴロいる。
これはもう間違いないな。
あれこそ前世のレジェンド達の魂を受け継いだ者。
即ちラスボス達だ。
「ってか、【野球の神様】? 【打撃の神様】? 【最高の二塁手】だって? 何だよ、このチート能力は」
思わず文句を口に出してしまう。
化物級の選手には尽く特殊なスキルがついていた。
分類は【特殊生得スキル】とある。
【生得スキル】ではないようだ。
恐らく魂に刻み込まれた特別なスキルなのだろう。
記憶がない代わりに得た、転生特典的なものなのかもしれない。
一例として口にしたこれらのスキルがどういう能力かと言えば――。
【野球の神様】
『全パラメータを+100し、打撃・走塁・守備・投球全てにおいて動作が最適化される。練習効率も上昇する』
【打撃の神様】
『打席に立つと打撃系能力が+200され、超集中状態に入りやすくなる』
【最高の二塁手】
『二塁手として試合に出ている時、全パラメータを+150し、打撃・走塁・守備において動作が最適化される』
ヤバ過ぎる。
何がヤバいかって、これらは【年齢補正】や【体格補正】がかからず最終ステータスにそのまま乗っかってくる。
更にいくつか保有している【通常スキル】や【極みスキル】まで加われば……。
11歳にして下手なプロを凌駕するレベルになるだろう。
後3、4年もすればトッププロクラスになるのは間違いない。
全盛期ともなれば、異次元としか言いようがないステータスになっていそうだ。
「正にレジェンド、か」
俺達が彼らに挑むことになるのは、恐らく15年~20年後だろう。
ラスボス達の最終形を予測し、それを念頭に置いた日本代表の形を考える。
漠然としたものじゃなく、もっと具体的に。
そして、それを実現するために綿密な計画を立てていかないといけないな。
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