032 世知辛い事実とマウント

 それから何度かティーボールが行われたが、俺達のチームは全戦全勝だった。

 バランス型の佐々木蔵人は、基本に忠実でセンター返しが多いので二遊間を狭く。

 左打者で足が速い三木聡は、その反面パワーが乏しいので前進守備気味から打った瞬間にチャージ突っ込む

 俺とあーちゃんの二遊間コンビ+ファースト美海ちゃんで大体封殺できた。

 結果、俺は野球が上手という認識が3人に植えつけられたようだった。


「そんなにうまいなら、やきゅうチームに入ればいいのに」


 とある日の体育の後で、佐々木蔵人が話しかけてくる。

 傍には清原孝則と三木聡もいる。


「ウチは貧乏だからね。野球チームに入るだけのお金がないんだよ」

「……ふーん」


 俺の答えに、何だか見下すような顔になる清原孝則。

 他の2人もどことなく溜飲が下がったような気配だ。


 俺としては特に重要視していないが、事実は事実。

 前世でもそうだったが、世知辛いことに今の野球はとにかく金がかかる。

 野球が金持ちのスポーツと化してしまっている。

 そんな風に問題視されることもあったぐらいだ。


 実際問題。

 グローブ、バット、ボールは基本中の基本。

 ガチでやるなら各種アンダーウェアやスパイクも不可欠だ。

 バッティンググローブやプロテクターとかもあった方がいい。

 しかも、成長に合わせて買い替えも必須。

 値段はピンキリだが、たとえキリでも家庭の負担は大きい。

 いい道具を使った方が練習の効率がいいのは間違いなく、貧乏が決して小さくないハンデになるのは否定できない事実だろう。


「おれのチームはさいしんのきざいがそろってるから、ほかのチームよりおかねがないと入れないめーもんだって、かーちゃんがいってた」


 清原孝則がマウントを取るように少しにやけながら言う。

 野球チームの会費もこの世界だと青天井だ。

 有名監督、コーチの招へいにも金。

 最新の科学的フィジカルトレーニングを練習に組み込むにも金。

 何名ものプロ野球選手を輩出しているチームなどは会費が数万、十数万とインフレしていたりもする。

 さすがにこの近くにそこまでの超高級路線のチームはないが、俺が入団できるような安価なところもない。


「へえ、そうなんだ。凄いな」

「だろ?」


 褒めてやると鼻高々だ。


「けど、そういうチームって上のクラスに行くの大変なんじゃない?」

「そーだよ。ジュニアクラスはお金でだれでも入れるけど、マイナークラスとメジャークラスはテストにうかんないといけないんだ。ま、おれたちはらくしょーだけど、まさきとしょうじはむりだな」

「……成程」


 名称は球団によって違ったりするが、メジャークラスは皆がイメージする小学生野球、リトルリーグのことと言っていい。

 国際大会に選出されるのも、大体そこからだ。

 小学5年生から所属でき、中学生辺りからその次のシニアリーグに移行する。

 前世ではその先は高校野球だったが、この世界では前世のサッカーのようにユースチームがあるらしい。

 野球最優先の世界故だな。

 その分だけ、国内外で前世にない大会が色々あったりするようだが……。

 今は割愛しておこう。


「ウチのチームには、らいしゅうのU12の日本だいひょうにえらばれてるせんぱいもいるんだぜ!」

「……え? マジで?」


 おっと。ちょっとガチで驚いてしまった。

 U12ワールドカップ。

 11歳と12歳の代表選手で競われる国際大会。

 それに選ばれるなんて、割と本当に凄いことだぞ?

 いくら名門とは言え、彼らのチームは全国的には中の上程度のはず。

 もしかするとその先輩とやらは、【成長タイプ】ガチャと【生得スキル】ガチャの勝者なのかもしれない。


「と言うか……そうか。U12は11歳から出られるんだよな」


 11歳。

 丁度4歳年上。

 アメリカに転生した大リーグのレジェンド達も、今正にその年齢ぐらいだ。

 もしかすると……いや、ほぼ間違いなくアメリカ代表に選出されているはず。

 勿論、まだ選手として完成はされていないだろうけど……。

 それでも、その片鱗ぐらいは見て取れるはずだ。


「そいつは、見逃せないな」


 必ず目に焼きつけなければならない。

 俺が挑むべきラスボス達の姿を。

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