018 休日の過ごし方と初グローブ

 今日は休日。

 保育園もお休み。


「しゅーくん。ぎゅー」

「はいはい」


 それでも俺の隣には、腕に抱き着いてご満悦なあーちゃんの姿があった。

 何故かと言えば、彼女の家に遊びに来ているからだ。

 保育園と同じように朝預けられ、夕方迎えが来るまであーちゃんと遊ぶ。

 家族の用事がない限り、これが最近の俺の休日の過ごし方だった。


 ちなみに昼食は毎度ご馳走になっている。

 両親には申し訳ないけれども、とてもいいものを食べさせて貰っている。

 鈴木家がウチよりも裕福なのもそうだし、あーちゃんの祖父が食品加工会社を経営しているから、というのもあるかもしれない。

 借り、と言うか、恩が増えていくばかりだ。


「茜は、本当に秀治郎君が好きなんだなあ」

「ん、好き」

「そうかあ……」


 若干複雑そうな男性の声。

 それはあーちゃんの父親、鈴木明彦氏のものだ。

 もう何度も休日に遊びに来ているので顔見知り。

 結構俺も可愛がって貰ってるけれども、それはそれとして複雑な男親心というものがあるらしい。

 前世の俺は勿論のこと、娘を持たない父親も経験できない感覚だ。


「すりすり」

「むう……」


 俺の腕に頬を擦りつけるあーちゃんに、小さく呻く明彦氏。

 あーちゃんからの行動だけに、何とも言いにくいようだ。

 それから少し考えるように腕を組む明彦氏。

 彼は何か思いついたような顔をすると、俺を見た。


「そうだ。秀治郎君、キャッチボールでもしようか」

「キャッチボール? 僕、グローブ持ってないよ?」

「ああ、それなら貸してあげるから」


 そう言うと、明彦氏は奥の部屋から3~5歳児用の青々とした小さめのグローブを持ってきた。

 使用済みではなさそうだけど、完全な新品でもなさそうな感じだ。

 それを不思議に思っていると。


「子供とキャッチボールするのが夢でね。子供ができたと分かった時に、先走って買ってきた奴なんだ」


 少し恥ずかしそうに明彦氏は言う。


「それって、あーちゃんのじゃないの?」

「茜のはまた別に買ったんだ。茜の好きな色の奴をね」


 また奥の部屋に行って、夕焼け空のような色のグローブを持ってくる明彦氏。

 マダーレッド。茜色か。

 見た感じ、特注品っぽいな。

 多分、あーちゃんが元気になってから買ってきたのだろう。


「ほら」


 明彦氏に青色のグローブを差し出され、頷いて受け取る。

 誰も使わないグローブと言うのなら、ありがたく借りよう。

 今生で初めてのグローブだ。


「さ、庭に行こう」


 明彦氏に促され、あーちゃんと手を繋いでウッドデッキから庭に出る。

 鈴木家は庭つきの一軒家。

 ちなみにウチは安アパートの1階にある1DK。

 圧倒的格差に溜息が出そうだ。


 食は全ての源。勿論、スポーツ……野球にとっても。

 であるが故に、食品加工業はこの世界の職業カーストでも割と高いレベルにある。

 そのおかげか、鈴木家は中流上位から上流下位ぐらいの立ち位置だ。

 ただ、この世界だと3部リーグの中堅選手と同等ぐらいになる。

 どれだけ野球が優遇されているか分かるだろう。


「茜、離れないとキャッチボールできないぞ」


 庭に出てもくっついたままのあーちゃんに困ったように言う明彦氏。


「や」


 だが、あーちゃんはよりくっついてくる。

 まだ満足してないアピールだ。


「離れないと秀治郎君の格好いいとこ見れないぞ?」

「…………ん」


 今度は素直に離れるあーちゃん。


 いや、明彦氏。

 何だか随分とプレッシャーをかけてくれるな。

 ……もしかして、わざとか?

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