016 異世界日本野球の現在地①

 自宅に帰ってやることと言えば、体を動かしながらテレビを見ることぐらいだ。

 ゲーム機なんて家にはない。

 専用のPCやタブレット、スマホなんかも当然ながらない。

 知育玩具はいくつかあるが、転生者である俺が長時間遊ぶのは少々きつい。

 まあ、薄給の両親がなけなしの金で買い与えてくれたものなので、時折2人の前で遊ぶようにはしてるけども。

 基本は、数百円の子供用プラスチックバットとビニールのボールが俺の相棒だ。


 だから、テレビを見ながら素振りをするか、ボールを手の中で遊ばせるか。

 そのどちらかが定番。

 で、今俺が手にしてるのはプラスチックバットの方。

 右打ち、左打ちに持ち替えながら、繰り返し素振りをしている。

 将来的なことを考えれば、両打ちはマストなので今から矯正しているのだ。

 両投げで、左右異なるタイプのピッチャーを目指すことも計画中だ。


 正直、行儀の悪い行為ではある。

 しかし、この世界では野球が関わっていれば、ある程度のことは許容される。

 ものを壊したりしないように配慮していれば、怒られたりはしない。


「秀治郎、そろそろ晩御飯ですよ」


 まあ、さすがに食事の時は話が別だけど。

 野球に限ったことじゃないが、食べるという行為は重要だからな。

 ただ、それでもテレビに意識を向けることは許される。

 と言うのも――。


『打ったっ! いい角度で上がった!』

「お、いい当たり」

「これは入りそうですね」


 この時間はどのテレビ局も全て野球中継だからだ。

 画面に映し出されているのは国営1部パーマネントリーグの試合。

 兵庫ブルーヴォルテックス対宮城オーラムアステリオス。

 丁度2回裏のアステリオスの攻撃で、4番打者が豪快なホームランを打って先制したところだった。


「今年のアステリオスは調子がいいなあ」

「……毎年春先に言ってませんか?」

「い、いや、今年はいけるかもしれないから……」

「それも毎年言っていますね」


 どうも宮城オーラムアステリオスは後半戦で大失速するチームらしい。

 6チーム構成の国営1部パーマネントリーグの中では、比較的下位の戦力だ。

 そう断言できるのは【プレイヤースコープ】が画面越しでも機能したからだ。


 この世界の日本におけるプロ野球リーグは国営1部、2部、3部、私営1部、2部、3部で構成される。

 国営1部にはセレスティアルリーグ(通称セリーグ)とパーマネントリーグ(通称パリーグ)が存在し、それぞれに6チームが所属している。

 国営2部、3部は元の世界で言う2軍、3軍と考えればいい。

 私営1部、2部、3部の方はサッカー的なシステムに近く、昇格、降格がある。

 それぞれ12チーム、24チーム、24チームの構成だ。

 国営1部と私営1部は交流戦があり、レギュラーシーズンの上位チームはプレーオフを経て最終的に日本一のチームを決める日本シリーズに進出する。

 野球狂神の都合で野球がスポーツ需要のほとんどを担っているため、プロチームは前世とは比べものにならない数存在しているのだ。

 アマチュアまで含めると、把握し切れない程になる。


「秀治郎はまだ好きなチームが決まらないのか?」


 その中で、どうも父さんは息子である俺に自分の贔屓チームである宮城オーラムアステリオスのファンになって欲しいようだ。

 子供と一緒に同じチームを応援したいのだろう。


「アナタ、別に特定のチームを推さなければならない訳ではないでしょう」


 そう言う母さんは、広く浅く楽しむタイプらしい。

 実際、チーム数が多い世界だけにそういう人も結構いるみたいだ。

 前世より複数チームのファンや、逆に特定選手のみのファンも多い気がする。


「んー、どこもピンとこない」


 俺のスタンスは前世と余り変わっていない。

 母さん以上に幅広く、うすーく見渡しているだけ。

 いや、もしかすると前世よりも酷くなってるかもしれない。

 まあ、国際試合は注視してるけどな。

 だからと言う訳ではないが――。


「アメリカのチームの方が凄いし」

「………………そっか」


 俺の答えに、残念そうな顔をする父さん。

 しかし、どことなく納得の色も見える。

 国への帰属意識が薄い子供の頃だと、仕方がないと思っているのかもしれない。


 あくまでも今生の話だし、日本ディスをしたい訳じゃないと前置きしておくが。

 余りにも野球狂神のバランス調整が悪いせいで、アメリカ以外の国の野球は遅れに遅れているのだ。

 ハッキリ言えば、異世界日本の現状は単なる劣化アメリカ。

 スモールベースボールが至高とかそういうことを言いたい訳でもないけど、まず選択肢にも入っていない。

 横綱相撲の真似しかしない小兵。

 それが異世界日本野球の現在地だった。

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