ぐちゃぐちゃ 【KAC20233】

はるにひかる

ぐちゃぐちゃ


 アタシ、久地屋ぐちや紅茶ぐちゃ、夢見る二十四才!



 ──なんて昔読んだ少女漫画みたいにテンションを上げて目覚めてみた、数ヵ月ぶりの休日。……の、夕方。


 大学の友達よりも大分遅れて滑り込めた就職先は、絵に描いたようなブラック企業だった。

 就職を機に家を出て借りたアパートは、ほとんど寝に帰る為だけのものになっていて、住み始めてから全く掃除ができていない。閉めっぱなしのカーテンのすき間から差し込む西日が照らす室内は、あれやこれやでぐちゃぐちゃに散らかっていて、足の踏み場が無いほどだ。


「今日こそ、片付けなくちゃ」


 ……子供の頃は、どんにおもちゃを散らかしたままにしていても、朝になると片付いていたものだったけど。あれは、親が片付けてくれていたのだろう。


 枕元にあったゴムで髪を結わえ、戦闘準備に入る。


 ……そう言えば幼馴染みの大高とわちゃんが子供の時、おうちの本屋のお店の中で、誰もいない筈の夜中に「吾輩は」って喋るネコちゃんを助けたって話してたことがあったな。あの時は「どんな夢見てんの」って笑い飛ばしたけど、私の所にもそんな不思議な出来事が起きて、この部屋の中が一気に綺麗になってくれたりしないかな。カモン、妖精さん。

 ……あの時のあの子が漱石の『吾輩は猫である』なんて読んでいたとも思えないけど、知らないことを夢で見るなんてあるのかな。もしかして…………なんて、あるわけ無いよね。きっとタイトルだけ何処かで、──それこそお店の中で目にした事があったとか、そんな事だろうな。


 ……あの子とも大学卒業以来になっちゃってるから、久し振りに会えないかな。会いたいな。

 どこだったかは忘れたけど大手企業に入ったって言っていたから、アタシとは全然違う毎日を送っているんだろうな。話に聞くところでは、秘書課らしいし。

 今日いきなりは無理としても、今度……は、いつ、休みが、……とれる、かな…………。

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