全校生徒の高嶺の花である品行方正お嬢様が実は面白い人なのは隣の席の僕だけが知っている。

ぺいぺい

寡黙美少女は悪童


 僕、友崎春太の隣の席の霧島麗奈さん。

霧島さんは腰のあたりまで伸びる黒の長髪に、スラっとしたスタイルで誰もが認める美少女である。

さらに成績は学年1位で、偏差値の高い大学も余裕で目指せる程の頭脳明晰。

欠点など全くないと思える。


 しかし、一つだけ問題がある。

それは才色兼備な姿が影響し、みんなから高嶺の花だと避けられていることだ。



「あっ、霧島さんだ・・・!」



廊下を歩けば、生徒は自然と霧島さんに道を開ける。



「今日も綺麗だな・・・」


「一度でいいから話してみたいなー」



 その独特な雰囲気と容姿端麗な姿に、男女問わず全員から羨望の眼差しで見られる。

しかし、それは本当の霧島さんを知らない生徒たちの反応である。

隣の席の僕だけは知っている、霧島さんの本性を。


 ある日の授業中。

教室の窓側の一番後ろの席の僕は、授業に飽きて窓の外の景色を眺めていた。

この席は一番後ろということもあり、授業を聞いていなくてもバレることはない。


 先生が黒板にチョークで板書するカツカツという音をBGMに、

外の景色を優雅に眺める。


 最高の時間。

だが、それを邪魔するように、何処かからむしゃむしゃという音が聞こえてくる。


 ん、なんだ?

耳を澄ましてよく聞いてみると、その音は隣の席の霧島さんからだった。


 僕は恐る恐る霧島さんの様子を確認した。

そこには、授業中にも関わらず教科書を盾にして隠し、ガツガツと弁当を爆食いしている霧島さんがいた。


 卵焼き、そして続けてタコさんウィンナーと、弁当のおかずを怪獣のように口に放り込んでいる。

その光景は普段の上品な霧島さんからは全く想像できない。


 そして僕は大きなため息をつく。

最初に霧島さんの隣の席になった時、僕は胸を高鳴らせていた。

なんたって霧島さんは学校1の美少女で誰もが憧れる存在なのだから。


 優雅でどんなときも冷静な姿をこんな間近で見られるなんて、そう思っていた。

しかし、幻想はすぐに打ち砕かれた。



「ふぅ〜」



 霧島さんはお腹をさすりながら、小さく満足そうな声を上げる。

そしてお弁当をカバンに片付ける。


 ようやく食べ終わったようだ。

これで授業に集中するだろうな。


 僕が呑気にそう思っていると、霧島さんはカバンから本日2つ目のお弁当を出した。

そしてまたもや先ほどのように高速で食べ始める。

まさかのお弁当2つ目の登場、ちなみに今は1限である。


 すると霧島さんが僕の視線に気づいた。

2人の視線がぶつかる。

お弁当のおかずを口いっぱいに含み、ほっぺたがリスみたいに膨らんだ霧島さんがこちらを見ている。


 すると霧島さんは、箸でつまんだブロッコリーをスッと差し出してきた。

どうやら僕にくれるようだ。



「いや、ブロッコリーの気分じゃないんだけど・・・」



 僕がそう言うと霧島さんは差し出したブロッコリーを戻し、バクっ!と自分で食べた。

そして怒った表情で僕を睨んだまま、口をもぐもぐしている。


 せっかくあげようと思ったのに!ということだろう。

その気持ちは嬉しいが、ブロッコリー1つだけ渡されても・・・


 そうして2つ目のお弁当を食べ終わった霧島さん。

今度はなぜか教室をキョロキョロしている。


 すると霧島さんはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

その視線の先には寝ている生徒がいる。

そのままカバンの中をゴソゴソし始める。


 今度はなんだ?

そして霧島さんはカバンの中からパチンコ、いわゆるスリングショットを取り出した。


 Y字型の持ち手の先には遠くまで狙えそうなゴム紐がついている。

霧島さんは続けてカバンの中から大量の消しゴムを取り出し、机の上にばら撒いた。


 そんなことしてどうするのかと思っていると、

霧島さんはパチンコを手に持ち、消しゴムをセットし、ゴムを引っ張り始めた。


 狙いは斜め右奥で寝ている男子生徒。

まさか・・・


 僕の嫌な予感は当たっており、

霧島さんはその寝ている生徒に向かって消しゴムを放った。

 

 放たれた消しゴムは男子生徒にビュン!と一直線に向かっていく。

あまりにも高速であり、僕と霧島さん以外に気づいている生徒はいない。


 そして風を切る消しゴムは男子生徒の寝ている額にバチン!とぶち当たった。

途端、撃たれた男子生徒がバッ!と飛び起きる。

額を抑え、驚いた様子で周りをキョロキョロしている。


 霧島さんは知らんぷりをするように口を尖らせて口笛を吹いている。

な、なんて悪童なんだ!

普段の霧島さんを知っている人が今の一連の流れを見たら、膝から崩れ落ちるだろうな。


 霧島さんは満足そうだ。

すると僕の目の前にスッとパチンコが差し出される。



「よかったら友崎くんも・・・」



 小声でそう言う霧島さんがターゲットを指差す。

それは教室の前の方の席で机に突っ伏しよだれを垂らして眠っている、僕の親友の山本だ。



「え、僕がやるの?」


「・・・授業中に寝る奴は悪だから」



 いや授業中に弁当食ってパチンコで叩き起こすのは極悪だと思うけど。

そんなことは霧島さんに言えず、仕方なくパチンコと机の消しゴムを手に取り、

山本に狙いを定める。


 しかし人や物の障害物が多く、難しい角度でなかなか山本の額に狙いが定まらない。

その様子を見かねた霧島さんが僕に近寄ってくる。



「ここをこうして・・・」



 霧島さんはそう呟きながら僕の肩、腕、腰に触れて角度を調整してくれる。

突然の至近距離にドキドキする。

横を向けばすぐそこに霧島さんの顔がある状態。



「これでOK」



 僕とは違い、そんなことは気にしていない霧島さん。

調整してくれた角度は完璧で、あとは放つだけだ。


 僕は覚悟を決める。

そして、霧島さんが僕の耳元で呟く。



「発射ー!」



 すまん!山本!

僕はそう心で唱え、消しゴムを発射した。


 手を離れ、高速で飛んでいく消しゴムは人の隙間を一直線に進み、山本の額に吸い込まれていく。

そしてバチン!という音と共に着弾する。



「いてっ!」



 山本はそう言って飛び起き、立ち上がった。

先ほどの男子生徒と同じように周りをキョロキョロしている。



「どうした山本?夢の中で転んだか?」



 先生のツッコミで教室がクスクスと笑いに包まれる。

ふと隣を見ると霧島さんは声を必死に我慢し、足をジタバタさせて爆笑していた。


 そう、隣の席の僕だけが知っている。

霧島さんは面白い人だということを。

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