第2話 引く手あまた

「おお! フランシスじゃないか! 今一人なんだろ? どうだい? ウチに来ないか?」


「フランシス! ナーシェンのパーティーを抜けたんだろ? ちょうど「じゅじゅつし(呪術師)」が欲しかったんだ。今なら歓迎するぜ?」


 どこで情報を得たのやら。俺がパーティーを抜けたのを知って冒険者ギルドに着くよりも早く、ラブコールが届いた。

「正式な手続きはギルドを介してしてくれ。好意だけは受け取る」と言って俺は冒険者ギルドへと向かった。こういう時の口約束程、厄介なものは無いからだ。




「フランシス=ドゥーヴァルトさんですね。メンバーを募集しているパーティーで、S級かA級ですね。お探ししますからしばらくお待ちいただけますか?」


「わかった。よろしく頼む」


 俺は冒険者ギルドの受付嬢に言われ、ソファーに腰を下ろす。




 ……あー、こういう展開ではお馴染みかもしれないが、過去の掘り下げって奴をやっちゃっていいかな読者の皆様?

 ナーシェンの奴は俺とは幼馴染で、幼い頃から「ハーレムを築きたい」なんて言い出す女癖の悪い奴だった。

 でも冒険者になって早くからイーリスにベタ惚れしていて、このままなら浮気しないで一途な男として一生を過ごせると思った矢先にこれだ。

 アイツの事だ。絶対ライムとか言った女に乗り換えるぜありゃ。


『若く美しい女が好きな男は、加齢した妻を捨て、新たに若く美しい女を求める』

 って奴だ。誰が言ったかは覚えてないけど。




「お待たせいたしました。とりあえずS級パーティに絞りましたがこうなっております。いかがいたしましょうか?」


 出てきたのは5つのパーティー。それぞれ構成メンバーも現在の所在地もバラバラ。でも登録してあるレベルや装備品を見るにどこも超一流のパーティーであるのは確か。

 俺はその中から現在地から最も近い場所にいるパーティーを選んで募集に応募するのを依頼する。




 あとはパーティーのいる町まで歩くだけとなったのだがその途中の事だ。

 新規加入予定のパーティがいる場所までの途中にある町の入り口、そこにイーリスが立っていたのだ。守衛の仕事じゃないよな?


「お前、イーリスか!? こんな所で何やってんだ? S級冒険者もあろうお方がまさか守衛のバイトしてるわけじゃないだろうな?」


「フランシス、また会ったわね。今は逃げ出したナーシェンを探しているの。この町にいることは間違いなさそうなの。彼が逃げないよう見張ってるところよ」


「ナーシェンが逃げただぁ? もしかしてアイツの女関係か?」


「もうそこまで噂が広まってるの? 早いわね」


「いや噂を聞いたんじゃなくて、あんな若い女をパーティーに加えたからあのバカの事だからやらかすと思っただけさ。その様子だと当たっちまったみたいだな。

 にしてもテンプレ通りに落ちぶれてんなぁあいつは。読者がそれを求めてるってのもあるだろうけど」


「その虚言癖は変わってはなさそうね」


 イーリスの奴はハァッ。とため息をつきながらも、どこか安心したような表情を見せる。別れてから1日しか経ってないが、無事でいたのは嬉しいようだ。




「まぁな。ナーシェンに関してはまさに「自業自得」そのものだな。自分でまいた種なんだから責任もって自分で刈り取ってもらいたいね。俺は知らん」


「……ずいぶん冷たいわね。まぁ仕方ない事でしょうけど」


「俺だって人の子だ。殴られたら痛いんだ。殴られたらそれなりの措置をとるだけだ。冒険者ランクS級の勇者様ならこの程度の修羅場なんて大したことないでしょ?

 それと、俺の予想通りだと思うけどあいつが何をしでかしたのか読者に説明してくれないか?」


「誰よ『どくしゃ』って……まぁいいわ、何があったか教えるわ」


 これからイーリスが言い出す内容は、俺が予想していたであろう内容と大して変わらないだろう。そんな予想がすぐ立つものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る