つまり、勢い【KAC20233(テーマ:ぐちゃぐちゃ)】

◇◆◇

 昼休み、雪田ゆきたは友人の夏木なつきに声を掛けた。


「古今東西ゲームやろうぜ」


 古今東西ゲーム。お題を決めて、一人ずつお題に合うものを言っていくいにしえのゲーム。お題に合うものを思い付けなかったり、前に出たのと同じものを言ったりすると負けで、罰ゲームの餌食となる。


「いいよ、お題何にする?」


 なので、お題はとても大事だ。


「果物しばりでいこう」


 もう一度言う。お題はとても大事だ。


「それ、面白くなるかな?」


 夏木が訝しげに言う。

 それに対し雪田は。


「じゃあ俺からな。古今東西! 果物! いちご」


 全く頓着しなかった。


「聞いてよ、話。バナナ」


 夏木は溜め息をつきつつ、ゲームにのる。

 そこがいいところでもあり、隙でもあった。


「まあやってみようぜ、みかん」

「はあ、りんご」

「パイナップル」


 お互いに果物をあげていく。


「ドラゴンフルーツ」

「柿」

「ねえ、これどう考えても二人でやるの微妙よ」


 果物なんていくらでもあげられる。

 このままでは果物をあげ連ねて昼休みが終わってしまう。


「おう、俺も薄々気付いてたわ」


 そんなの、少しも楽しくないわけで。


「気付くのが遅いわ。……じゃあさ、ルール追加してみない?」


 夏木が提案する。


「ルール?」

「そう。前にあがった言葉を全部言ってから自分の番の言葉を言うの。例えはさっきのだったら、あんた最初にいちごって言ったじゃない?」

「そうだっけ」

「言ってたよ。で、次の番のあたしは、『いちご、バナナ』って言うの。次、あんたは『いちご、バナナ』って言ったあとに好きな果物を言う」


 雪田が不敵に笑った。


「なるほど、完璧に理解した! いちご、バナナ、いちご!」

「うん、何を理解したか分からないけど、前に出たものを言ったからあんたの負けね」


 呆れる夏木。


「えー好きな果物って言ったじゃん! なんだよ罠かよ」

「はいはい、次行こ。古今東西! 世界の偉人! マザーテレサ」

「次は負けねえ。マザーテレサ、リンカーン」

「マザーテレサ、リンカーン、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」

「………………なんて?」

「ピカソの本名よ」


 夏木は涼しい顔で言った。


「いやそんなん覚えられねえわ」

「そう。ふふ、このゲームの必勝法見つけちゃったわ」

「くっそー、次! 古今東西! 首都! スリジャヤワルダナプラコッテ!!」


 雪田が鼻息荒くスリランカの首都を言う。

 夏木は表情を変えず、淡々と続けた。


「スリジャヤワルダナプラコッテ、クルンテープ・マハナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロック・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット」

「おいいいいいいいい!!」

「なによ」

「いや、ゲームだよこれ。なんでそんな完膚なきまでに叩きのめしにくるの!?」

「ん? 雪田が世界で二番目に長い名称の首都を言ったから、一番長い首都名つまりバンコクの正式名称を言うしかないじゃない」

「いや、そういうゲームじゃないからね!?」

「知ってる。で、続けるの? 降りるの?」

「お前そういうとこあるよなあ!」

「うん」


 叫ぶ雪田に動じない夏木。

 とうとう雪田が口を開いた。


「やってやるよ。全部言えたら夏木の負けだからな!!」


 さり気なくルールを改変し、雪田が強がる。

 そして、夏木の返事を待たず続けた。


「スリジャヤワルダナプラコッテ、クルンなんとかパッパピッドアーマードラゴンリチャードピカチュウセリヌンティウスうにゃうにゃプラシットォォォォオオ!!!! どうだ!!!!」

「えーと」


 半目で夏木が呻いた。


「ぐちゃぐちゃ過ぎてどこから突っ込んだらいいかわかんないんだけど、雪田はバンコクに謝罪した方がいいと思う」


 そして、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。



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つまり、勢い【KAC20233(テーマ:ぐちゃぐちゃ)】 @ei_umise

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