有隣堂"しか"知らない世界 コールセンター独身女の場合
@yoshimoto_naboNa_
ブッコローが刺さった日
コールセンターの在宅勤務をこなす独身女。
仕事が終わって料理家のYou Tubeを見ながら配信者同様ハイボールをのみつつ至高の豚汁を作っていた。
ごま油で炒めたゴボウと豚肉のいい香りがする。
ほろ酔いで材料をぶちこんで煮込む間、ソファでYou Tubeを見ていた。
有隣堂しか知らない世界のお気に入りの回、蛍光と蓄光のくだりをニヤケ顔で見ていたが、うたた寝してしまったようだ。
にぎやかな声で目がさめる。
なにかおかしい。
ブッコローがわたしに刺さっていた。
は?
にぎやかな声は撮影中だからだったようだ。
意味がわからなかった。
ブッコローの中は暖かくて体操のマットみたいな匂いがしてなんとなく夢じゃなさそうだ。
わたしは空気を読む女。
コールセンターにはたくさんの人が困って電話をかけてくる。
大体は解決したい人だが、たまに困ったふりしてモヤモヤした気持ちに謝って欲しい人とか長年使っているとか感謝してほしい人、大切に扱われたい人とかが混じっている。
空気を読んで謝ったり感謝を伝えたり、感心したふりをする。
だから今回もわたしはとりあえず声に合わせて動いておくことにした。
横には角川の金髪の女性がブッコローの小説を募集する話をしていた。
彼女の髪色はカメレオンのように入社時からどんどん色が変わっているらしい。
わたしからは画像がよく見えないがおぉ〜と歓声があがる。
書籍化やアニメ化などになると月に100万も稼ぐ人がいるらしい。
岡崎さんも思わずおぉ〜と声を上げた。
この事態に適応していたつもりだが緊張していたようだ。
岡崎さんにほっこりした。
なんとか撮影が終わった。
あわただしく撤去がはじまる。
みんな忙しそうだ。
おそるおそる近くの人に声をかける。
わたし:あのぉ…わたしはどうすれば?
え?と不思議な顔でこちらを見る。
近くの人:郁さぁ〜ん!
声をかけた人が郁さんを呼ぶ。
郁さんがすてきな笑顔でかけよってきてくれた。
郁:どうしました?
わたし:わたしはどうすれば?
郁:あっもう遅いし終電終わっちゃいますよね?千葉駅でしたよね?大丈夫大丈夫!もう帰って大丈夫ですよ!はいこれ千葉駅までの回数券!
すてきな笑顔でこわいことを言う郁さんは忙しそうに行ってしまった。
いい香りがフワッと香る。
私の手には回数券。
どうやら脱がせてはくれないらしい。
というか脱ごうとしたが脱げない。
詰んだ。
鏡を見るとわたしは上半身ひじの上くらいまでブッコローが刺さっていた。
なにも思いつかない。
周りはみんな忙しそう。
わたしは空気を読む女。
顔も見えないしってことで開き直ってこのまま横須賀線に乗ることにした。
千葉駅までは直通だ。
なんとかなるだろう。
耳鳴りのようにドクンドクンと脈打つのがきこえる。
混雑する横浜駅も私の周りは人がよけてくれる。
前が見えにくいので助かる。
電車に乗ったら私の周りから人がいなくなりガラガラでなんなら快適じゃん!と空いた席に座りつつ心は涙でずぶ濡れになり帰宅。
もう一度脱げないかいろいろやってみる。
ダメだった。
汗だくだった。
お風呂に入りたい。
かぶりのセーターをハサミで切った。
他はなんとか脱げてお風呂につかった。
中にシャワーを入れておぼれそうになりながらだけど髪も洗えた。
頭にくっついているわけではないようだ。
セーターも脱げたかも。
ZARAのお気に入りだったのにもったいなかったなぁ。
ドライヤーも入ったけど熱すぎて死ぬかと思った。
そしてこんなんじゃ寝れないよ…と布団に入ったら朝だった。
あいかわらずブッコローが刺さっていたが寝れた自分に笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます