ラブコメの神ブッコロー、『ラブコメヒロイン』に恋をする   

風鈴 美鈴

第1話 ラブコメ

 俺の名前はブッコロー、ラブコメの神だ。基本的には、いろんなラブコメ作品の、恋のお手伝いをしている。

 ん?なんでラブコメかって?……ふっふっふっ、理由は簡単っ!

 俺が、ラブコメが好きだからだよ。

 そして今日も俺は依頼をこなす。

「ラブコメの神、ブッコローよ。今日、とあるラブコメ作品でヒロインが困っているらしい……」

「そう、ですか……」

「ラブコメの危機だ。天の声としてサポートしてきてくれ……」

 ラブコメの危機、だと……それはダメだ、

俺の好きなラブコメがなくなるのは許せないっ! 

 だからもちろん……

「はいっ!お任せくださいっ、トリ様……」

 答えはイエスだっ。

 少し嫌な予感はするが、まぁ、いつも通り依頼をこなすだけだ、すぐ終わるだろう。

「ということで、ブッコロー。これが今回のシナリオだ……。気をつけてこいよ……」

 俺はトリ様に礼をしてから部屋を出た。そしてトリ様がくれたシナリオに軽く目を通すと、サポートの準備を始める。

────────────────────

─────とあるラブコメにて。

「ふ、ふぬぬぅ……ひゃあっ?!あ、あえ?はぁ、これじゃあ大好きな彰君(あきらくん)に渡せないよぉ……」

 私は目の前にあるダークマターを見てため息をついた。

「……はぁ、も、もう一回っ!」

 の、前に……自己紹介がまだでしたねっ。

私の名前は海野 愛(うみの まな)、高校一年生です。

 同じく一年生の風見 彰くん(かざみ)に片思い中です。

 はぁ、もうすぐバレンタイン。皆さんお察しの通り、私は料理が苦手、さっきからダークマターの錬成ばかりしてしまいます……。

「……はぁ」

 と、私がもう一度ため息をつくと、どこからか男性?の声が聞こえてきました。

『お困りのようだね?』

「?!ふ、ふぇえっ?」

 反射的に私は耳をふさいでしまった。

『あぁ、驚かせてしまってす、すまないね』

 あ、あえ?謝ってくれた。案外、優しい人?というか耳、ふさいでも声、聞こえる……。

『あぁ、自己紹介がまだだったね……私はラブコ……ん、んんっ……恋する乙女を応援するキューピッドさ……』

「………キューピッド?」

 やっぱり、優しい、人?

『そうだよ。君の恋を全力でサポートしてあげよう。私は神だからね』

 そういって神様?はおかしそうに笑った。

 う、ううん?いい人、なのかなぁ。でも、できることなら手伝って欲しい、よしっ!

「か、神様?よ、よろしくお願いしますっ」

 こんな感じで始まった。私と神様の特訓の日々が……。

────────────────────

 俺、ことブッコローは今日もヒロインの愛と料理の特訓をしていた。

 俺が声で指導をして愛がその通りに動く、みたいな感じだ……。しかし、愛は予想以上だった。って、あっ!

『おい、愛っ……』

 俺が叫ぶと、愛は小動物のようにびくりと肩を震わせ、おそるおそる手を止めた。

「ひゃ、ひゃい?」

『その手に持っているのはなんだ?』

「し、しょうゆでしゅ……」  

『はぁ。なんでっ、ガトーショコラを作るのにしょうゆがいるんだよおおおおお』

 俺が叫ぶと、愛は涙目で答えた。

「か、隠し味……」

 なにしてるんだ、愛は……。バレンタインは明日なんだぞ?

『まぁ、とにかくいいから、私の指示通りに動いて下さい……』 

──────数時間後だよ。

「は、はぁ。はあ……」

『はぁぁぁ……』

『「で、できたっ」』

 ついにできた。俺らの努力の結晶……。

 二週間の、努力……。

「後は、ラッピングだけ……長かった」

 うん、愛、お前のせいだけどな……。

 でも、今日でお別れか、そう考えると寂しいな……。シナリオ的に、後は勝手にくっついてくれるはずだ……。

 そう思うと、胸が……痛かった。さっきまで寂しいと思っていたのに、今は早く離れてしまいたい。

 この気持ちは、なんだろう?

─────────────────────────次の日。

「た、ただいまですっ。神様ー、神様ー?」

 あぁ、愛か、お別れ、しないとな……。

「……神様?」

『愛、お帰り。恋のお手伝いも終わったことだし、私はそろそろいなくなろうと思う』

 暗い部屋、俺は静かに告げた。すると、愛がなにかを落とした。

『ん?それ……』

「あ、え?あっ?!」

『本命、チョコ?』

 そう、愛が落としたのは他でもない、昨日俺たちが作った愛の、本命チョコレートだった。

『なん、で……?渡さなかったのか?』

「……神様の、せいですよ。責任、とってください」

『……へ?』

 一瞬、なにを言っているのかわからなかった。

「神様が、優しくしてくれたからっ、途中から彰くんのことじゃなくて、神様のことばかり考えていたんです……」

「だから、勝手にいなくなったり、しないで下さいよ……。せめて、一回くらい会ってくれたっていいじゃないですか……」

 姿?それはダメだ。俺だって、人間の女性の好みくらいわかってるつもりだ。自分がその好みに入っていないことも、な……。

 まぁでも、最後くらいいいんじゃないか。最後くらい、いいよな?

 だから俺は、愛の前に姿を現した。

「……え?と、り?」

 ま、こうなるよなぁ。あはは……。

「か、かわいいっ」

『え……?』

 か、かわいい?俺が?まじ……。そして、そのまま優しく抱きしめられた。

『う、うおぉ?』

「好きです。神様……」

 や、ば……顔が、熱い。いや、でも、俺、は……

『はっはっは、そういうことなら私に任せなさいブッコロー……』

『と、トリ様?』

 そう、聞こえてきたのは、紛れもないトリ様の声……。

「だ、だれ?」

 あぁ、愛が怖がっている。どうすれば…… 

『ブッコロー、よく頑張ってくれた。礼に魔法をかけてあげよう』

『は?魔法……?トリ様、なに言って、ってうおぉっ?!』

 トリ様が、なんだかよくわからない呪文を唱え始めると同時に、俺の体が光だした。

 そして、呪文が終盤になると、それにあわせて光が弱まる。

 すべての光が消えるころ、俺の姿が変わっていた。

「う、ううん?」 

 目線は高くなり、声も少し変わった。動けないでいると、ふいに愛が声を上げた。 

「か、かっこいい……」

 ん?か、かっこいい……?

 かっこいいという言葉に俺が戸惑っていると、愛が鏡を持ってきてくれた。

「か、神様っ!よく自分のことを見てみて下さいよっ」

 俺も気になって急いで鏡を見ると、人間でいうイケメン、まさに人間の女性の好みそのものだった。

 我ながら思った……都合よくね?あぁそっか、そうだったここ、ラブコメの世界だったわ………。

『それじゃあ二人とも、お幸せにな……』

 するとトリ様が空気を読んでくれのか、そういっていなくなってしまった。

「い、行っちゃいました、ね?」

「あぁ……」

 愛の問いに、俺はそう返すことしかできない。

「……と、というか神様っ、ブッコローっていうんですね」

 俺は無言でうなずいた。今はとにかく、この幸せを噛みしめていたい。

「なんて呼べばいいですか?私のことはいままで通り、愛とお呼びくださいね」

「ありがとう。愛が名前を呼んでくれるなら何でもいいよ」

「……む、むぅ。そういうのが一番困るんですよ。ううん……ブッコロー、ぶっころー、ころ、あっ!コロちゃんとかどうです?」

 な、なんか、恥ずかしい。でも、それよりもう、嬉しいっ!

「すごくいい名前だ。これからもよろしく、愛……大好きだよ」

 改めて俺は愛の名前を呼んだ。やっぱり、いい名前だ。

 すると愛は顔を赤くして、噛みしめるように「両思い……」と、呟いた。

 あぁ、本当に幸せだ。

 これから俺たちがどんな人生を歩んだのかは、想像してみて欲しい。

 それにしても、ラブコメヒロインに恋か、我ながらイカれてるな、まぁ、幸せだから、それでいいだろ……。

 シナリオが書き変わっていることにブッコローが気づいたのは、まだまだ先の話。 

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ラブコメの神ブッコロー、『ラブコメヒロイン』に恋をする    風鈴 美鈴 @senrin

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