休日の迷探偵
四葉みつ
休日の迷探偵・1
きっかけは旧友からの電話だった。
今は警察署の刑事課に勤める小学校からの腐れ縁、
その宗太郎が「卒業アルバムを貸してくれ」と言ってきたのだ。
久々の休日、自宅でのんびりすごしているところに
「なんだ、同窓会でも開くのか?」
個人情報保護法の施行で今では記載されていないが、昔の卒業アルバムには個人の住所や電話番号が明記されている。生徒だけでなく教師のそれも載っている、今の時代から考えるとなんとも物騒な代物だ。都会なら賃貸に住む者も多いので時間が経てば意味をなさないかもしれないが、田舎は家族所有の物件に住む者が多い。本人と直接連絡がつかずとも、家族に言付けてもらうことが可能なのだ。
電話の向こうで宗太郎は少しだけ言葉を濁らせる。
「そんな悠長な理由ならよかったんだがな」
「なんだ事件か」
「いや、そこまではないんだが……。ある人物にちょっと聞きたいことがあるだけだ」
つまり事情聴取か。しっかり事件性があるじゃないか。
しかし民間人に捜査情報を漏らすわけにはいかないだろう。仕方がないのでここは相手の言い分を飲んでやる。
「というか宗太郎、自分の卒業アルバムはどうしたんだよ」
「俺のは実家に置きっぱなしなんだよ。お前なら荷物こっちに全部持ってきてるだろ?」
「それはそうだが……。で、どのアルバムが必要なんだ?」
先にも述べたように私たちは『腐れ縁』だ。共通する学校は小学校、中学校、高校、その先までと数種類存在する。
「とりあえず小学校から高校までのやつでいい」
「ほぼ全部じゃないか」
「あとで差し入れ持ってってやるから、じゃあ頼んだぞ」
宗太郎は朗らかにそう言うと電話を切ってしまった。私もテレビの電源をオフにするとやれやれと立ち上がる。
卒業アルバムなんてここ十年以上触れてもいない。どこにあったかなと呟きながら、私は自宅の2階を目指す。2階の一室を物置部屋として使っているのだ。
ドアを押し開けると、まずは段ボールの山が私を出迎えた。
「そういえば箱から出してすらいなかったな」
この一軒家に引っ越してきたとき、下手に開梱すると手がつけられなくなると予想して、日用品以外は箱から出さなかったのだ。目の前には数十個の段ボール箱、これは一日仕事になりそうだ。
まずはひと箱目を開ける。
「うわ」
出てきたのは子供用のおもちゃだ。積み木や水鉄砲、グローブと野球ボール、サッカーのボードゲーム、よれよれになったカードゲーム、どれも私が小学生の頃に愛用していたものだ。どちらかというとボードゲームの比率が高い。
私は外を駆け回るようなわりと活発な幼少期だったと記憶にあったが、思ったよりも室内ゲームにハマっていたようだ。
「……捨てよう」
これを機に私は
そのガラクタの下から平積みにされた伝記本が出てくる。
私は当時の自分を少しだけ呪いたくなった。なぜこうもぐちゃぐちゃに箱詰めしたのかと。本なら本、玩具なら玩具で箱を分けるべきだろう。
残りの数十個の箱をなんとなくぐるりと見渡す。きっとこの箱のどれもが、分類などされずに入っているのだろう。
ため息をつきながらふた箱目の封を切ると、中から謎の置物が出てきた。たしか居間の書棚に飾られていた気がする。
「ということは、この箱は居間にあったものが入れられてるだろうな」
まさか居間と子供部屋のものをごちゃ混ぜに入れていることはないだろう。
私は他の箱も開けると、微かな記憶を頼りに部屋ごとに荷物を分類していく。自宅にあった部屋は居間、キッチン、両親の部屋、子供部屋、玄関、それと小さな納戸だ。
お目当ての物はきっと子供部屋の箱に入っているはずだ。
「それにしても卒業アルバムか……」
箱から昔よく聞いていた洋楽のCDケースを取り出しながら私は呟いた。
しかも小学校から高校までのものときた。つまり、その3冊に共通する人物のことを宗太郎は調べたいのだろう。
宗太郎と私は小学校から専門学校までずっと同じ学校に通っていた。その私たちと同様に、同じ進学経路を辿った人物がほかにもいただろうか。ならばそこそこ交流があってもよさそうだが、まったく思い出せない。
生徒ではなく教員の可能性もある。小学校の教師が中学、高校と職場を変えることは珍しいだろうが、用務員や事務員ならあり得るのではないか。
色々と憶測しながら6箱目でようやく目的の卒業アルバムを見つけ出す。縄跳びや小型のダンベル、リストウェイト、腹筋ローラーなどの筋トレグッズがぐちゃぐちゃに投げ込まれた一番底に平積みにしてあった。
「重さで薄くなってたりしないだろうな……」
そんなことはありえないのだが、上に乗っていたものを見るとそんな気がしてきて、取り出したアルバムを宙にかざしながら裏と表を確認する。
そのとき玄関のチャイムが鳴った。
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