私の部屋にいるミミズク
道産小麦
私とミミズクと…
私の部屋には鳥がいる。大きな一羽の鳥。ミミズクという種類の鳥らしい。
この鳥は羽で器用に赤いペンと新聞紙を持ち、いつも考え事をしている。
私が物心ついて、親からこの部屋を使っていいと言われた時からこの鳥はいる。むしろ私が生まれる前からこの鳥はこの家にいるらしい。
この鳥とはずっと一緒にいるが、兄妹という関係よりも、親戚のおじさんと子ども。という表現がピッタリだと思う。
いつもは「次の菊花賞はこの馬が…」とか「ここは流して広めに買うか…」とか意味の分からないことを一人でぶつぶつ喋っている。人ではないから【一人】ではなく【一羽】と言った方が正しいかな。
たまに「ちゃんと勉強はしているのか?」「学校はどうだ?」とか聞いてくるけど、私はいつも曖昧な返事をするから、これ以上会話のキャッチボールは続かない。
昔はもっと色んなことを話していたはずなのに。
小学生の頃は、学校が終わって家に帰るとその日の出来事を一から十まで全部話し、友達や好きな男の子とどうやって接していいのか?という相談もしていた。
いつからだろうか。そんな些細な相談もしなくなったのは。
私との会話が少なった頃からこの鳥は常に新聞を持つようになった。
私に気を使っているのか分からないが、土日は一日中どこかに出掛けている。
帰ってくると機嫌のいい日と悪い日があり、機嫌が悪いときの方が多く「あそこで三番が失速しなければ…」「なんでこんな日に限って荒れるんだよ…」と訳の分からない言葉を羅列しふて寝する。
おじさんみたいな言動で鬱陶しいと思う日もあるが、寝顔はいつも愛くるしい。
私が小さなときは一緒に寝ることが多かった。
ぬいぐるみみたいな鳥はふわふわで、温かく、私が寝付けない日は子守唄を歌ってくれていた。
急に「最近学校はどうだ?楽しいか?いじめられてないか?」と聞かれた。
いつもなら適当に返事をするが、今日はなぜか久しぶりにちゃんとお話しようと思った。
「いじめられてないし楽しくやってるよ。最近気になる男の子がいて、ビワハヤテくんって言うんだけど、ナリタさんと仲良く話していることが多くて、それを見ちゃうと嫉妬っていうか、不安な気持ちになるんだよね」
「ビワハヤテにナリタ…。チケットがあれば完璧じゃん!BNWじゃねえか!」
鳥は私の話とは関係なさそうな単語を喋って、なぜか興奮している。
「そのビワハヤテくんにチケット渡せ!そうすればウイニング、じゃなくて勝利は確実だ!」
いったいこの鳥は何を言っているのだろうか。ちゃんとわかるように説明してほしい。
「遊園地でも映画でもなんでもいいからその男にチケット渡してデートしろ!そしたら上手くいくはずだ!」
なぜチケットを渡せば上手くいくのだろうか?それに遊園地と映画はデートプランが全然違い過ぎるだろ。
「いきなりチケット渡すのってハードル高くない?断られたらどうするのさ」
「なんで渡す前から失敗すること考えてるんだよ。大丈夫だって」
だからその大丈夫な理由を知りたいんだよ。さっきから言ってるその【BNW】って何?
「BNWについて詳しく聞きたいのか?確か最初に三頭が揃ったのは皐月賞だったかな…」
急に鳥が饒舌に語りだした。
1993年とかの話をされても私が生まれる前の事だし、全く興味が湧かないから適当に聞き流す。
でもこの鳥が言う通り、勇気を出してデートに誘ってみるのもアリかもしれない。断られたら友達と行けばいいから、チケット無駄がなることは無いはずだ。
「懐かしいなー。三頭によるラスト100メートルの攻防!あのレースは…」
まだ一人で喋っている。どうもこの鳥は人間以上に人間らしいから、ついつい一羽じゃなくて一人と言ってしまう。
あの鳥のいう通り遊園地のチケット用意し、いつでもビワくんを誘えるように持ち歩いているが、中々勇気が出ず未だに誘えていない。
モヤモヤする日々を過ごしていたら、放課後ヒガくんから声を掛けられた。
心の準備が出来ていない私は咄嗟の出来事に驚き、変な声を出してしまった。
変な人って思われたかもしれない。という恥ずかしさで顔を赤くしている私にビワくんが「今度、二人で遊びに行かない?」と誘ってくれるまさかの展開。
「行く行く!行きたい!実は、私もビワくんと二人で遊びに行きたいと思ってて、遊園地のチケットを用意してたの。でも、中々声を掛けれなくて…」
「そうだったの!?嬉しいなー!次の土曜日にその遊園地行こうよ!」
蓋を開けてみたら相思相愛だった私たち。
なんであんなに不安になったり声をかける勇気が無かったんだろう。と今思う不思議だ。
後から聞いた話だと、よく話をしていたナリタさんとは遠い親戚だったらしく、ナリタさんに私の事を相談していたらしい。
それを鳥に言ったら「ナリタってタイシンじゃなくて、ブライアンの方だったかー!!」と、またも興奮して語りだした。
「BNWだと思い込んでいたけど、ブライアンの方がしっくりくるかー!」
相変わらずこの鳥の言っていることはわかならい。
結果的にチケット作戦は上手くいって、ヒガくんデートできることになった。
「ありがとうね、ブッコロー」
「いつでも相談してきな、このR.B.ブッコローが何でも聞いてやるから!」
と言って笑っている鳥につられて私も笑ってしまった。こんなにブッコローと一緒に笑うのはいつ以来だろうか。
その日は夜遅くまでブッコローと笑いあってたくさんお話をした。
いつもありがとう、ブッコロー。
私の部屋にいるミミズク 道産小麦 @dousankomugi
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