第1章 『Death Monster School 編』
第1章1話 『日常』
-ッ……うるさい…
耳を叩くような、刺激的な音を鳴らすそれに対して、私はイライラしていた
今日もはやく起きれなかった自分に対して…
「(眠い…はやく準備してバスで寝てやる…)」
そう思うと足早に私は洗面台へ駆け寄り、歯磨き、洗顔を行い、髪型を整えた。
鏡を見る度に思う。私の親は誰なんだろう。
この自分ですら見惚れる金色のショートヘアーは誰から受け継いだのだろう。
この透き通った橙色の瞳は誰からだろう。
そんな事をずっと昔から鏡の前で自問自答して繰り返し、目を覚ます。
それが私の朝の日課みたいなものだ。
私の名前は 『潮風ナミハ』。
ごくごく一般の普通の女子高校生。
特に秀でた才能はある訳では無い。
ただ、いうならば人より身体能力が優れているってとこ。
昔、趣味で見ていた格闘技に憧れ、その真似事をしたりしていた。つまり真似事を出来るだけの才能はある。
でもそれだけ、それ以外は何も無い。
真似事は出来ても先は無いのだ。
それで賞を取れた訳でもないだから当然、無駄な才能である。
そもそも使えないものを才能と呼んでいいのかは置いておいて、それを差し引いても私は「平凡以下」なのである
私に親はいない。両親ともに他界してる。
物心ついた時には既に祖母が私の世話をしていた。
昔、祖母がよく両親の話をしてくれていたが、それも今となっては遠い思い出となってしまった。
知っているのは自分の苗字が『潮風』なのと、お父さんはとてもクールで勇敢で、誰彼構わず助けるようなお人好しの人だったということ。
母の事はあまり覚えられていない。
もう1回言うが、今となっては遠い思い出となってしまったのだ。
何せ、もう祖母すらも他界している。
だから、私は掛け持ちしてるアルバイトと遠くの親戚が送ってくれる生活費だけで生きている。
簡単に言えば貧乏さ、服もあまりない。
同じ服を何枚か持ち、それを日替わりで着ている。
気に入っているのは水色のカーディガンに、円形の形に加工された水色の帽子。
下は黒のジーパンを履き、そして大事な赤いマフラーを首に巻くことによって私のファッション一式は完成だ。
一番気に入ってるのがこれだ。
「これが私の戦闘服よ」と一度は言ってみたいが、そんな冗談を人前で急に言えるほどのコミュニケーション能力は生憎備わってはいないみたいだ。
このように私は自分の趣味などに使うような金を到底持ち合わせていないような典型的な貧困人間。
だが自分で言うのもなんだが…正直、私は清貧である。
でもそんな私の状況を知っている人がいても誰一人、学校でバカにしてくるような人はいない。
いや、してくるような人はいた。
けど、それも過去のものになった。友達の、大好きな皆んなのおかげ。
友達は私の現実を受け止めてくれてる。
優しい人たち、聖人が周りにいてよかったと常日頃思う。
私は決して不幸という訳では無い。
充実はしていないけど幸せではある。
それが私を取り巻く環境であり、祝福でもある。
…とは言っても、貧乏なことに変わりはない。
裕福ではない分、苦労も多い。
毎日、誰かしらに怒声を浴びせられることもある。
裕福だったらこんなこと無かったのかな。
昔からずっとそう思っていた。今でも思う。
バスに乗って、うとうとしながらそう考えてるうちに前方から騒がしい声が聞こえた。
「サクラちゃん、おはよー!」
「おはようサクラちゃん!」
「サクラ先輩〜!」
「うん! みんなおはよう!!」
皆んなから声をかけられる程の人気っぷり。そう、きっと彼女だ。
「おーはよっ! ナミハ!」
「朝から元気で羨ましいよ、サクラ」
後ろから聞こえた騒がしくも優しい声に私は気だるそうにしながらも笑みを浮かべながら返事をした。
声の主は可愛げな女の子。
『栗原サクラ』私の親友。
私が元気でいれるのはこの子のおかげでもある。
明るく元気で、誠実、何事にも前向きになれる素敵な性格の持ち主。
その性格も相まって、クラスで人気者である。
サラサラとした長髪に、透き通った茶色の髪、色白の肌。男性にアプローチをしてくださいと言わんばかりな美貌である。
おまけにスポーツへの才能はピカイチ。
地方では名の馳せているテニスプレイヤーだ。トロフィーを片手に笑う彼女の写真を私は何回も目にしたことがある。
他にも、どのスポーツでも彼女はものにしてしまう。
ハッキリ言って羨ましい。
彼女には目まぐるしい才能があり、将来有望で数多くの人に目をかけられている。
「どぉーしたのさ! また考え事?」
「どうやったらあなたのその無鉄砲さを直せるか考えていたところかなぁ?」
明るい声で心配してくる彼女に私はひねくれた返事をした。嫌味と愛を込めてだ。
「ナミハッ! また意地悪言ったね! 今日はジュース買ってあげないから!!」
「ごめんね、いつもの冗談!」
彼女は顔をしかめて私の肩を軽く叩きながら怒った。
小突いてくるその様子に私はつい冗談だと伝えた。
怒るのも当然だ、心配してるのに皮肉のような
怒っている彼女の顔は小動物のような可愛さがあり、車内の男性は釘付けになっていた、かのように感じた。
気の所為かもしれない。
こんな日常が楽しく感じられた、充実してる。
サクラは私の秘密も知っている、貧乏なこと、それに……
「ナミハー? 学校着いたよ? はやく行こ!」
「あ、あぁ、ごめん! すぐ行くよ!」
呆けていた私にサクラは揺さぶりながら声をかけた。私もその声に意識を戻されすぐについていった。
私が通っているのは「
東の都『イスタン』では、平凡な高校だ。
「ナミハ、ノールデンでまた事件だって」
「また?最近よく多発するよね、あの事件」
ノールデンで起きた『あの事件』などと私と
この世界ではよく起こる、各地で発生する「最低最悪の未解決事件」のことだ。
私たちの住んでいるこの世界では、
私たちが住んでるのは東都。
水源が多く、水を利用した産業や漁業が盛んであり、自然と共存するように人々が生活している。
年に一度、全ての生物に感謝と祈りを捧げる『
今、サクラが言った事件が起きた場所が北都。
気温が低く、寒さを他のどの
いずれにしろ不穏な噂が止まらなく、今回の事件と関連づけさせられてもいる。
「もしかしたら私たちも…」
いつもはニコニコし、その元気な一声は多くの人に元気づける。
そんな彼女が震え、怯え、そしてか細い声で口にする。
それは「神隠し事件」学生が忽然と姿を消し、音信不通になる。
探しても探しても見つかることはない。
行方不明になった人たちはそのうち皆の記憶から忘れ去られ、帰りを待つ家族のみが取り残された状態になるというこの世界で起きている大事件。
未だに解決出来ていない事件であり、人が忘れそうになる時、起きて恐怖を与える。
大切な人を失う恐怖。自分がこの世界から消えてしまう恐怖。いなくなったあとはどうなってしまうかという恐怖。
様々な恐怖で都市の民は震え上がり、眠れない子どものための子守唄まで出来てしまう始末だ。
肝心の事件の全貌も、神隠しにあった人間が生存していないせいか、詳細すら掴めず、国際機関は八方塞がり状態で未だに情報を集めることすらままならないらしい。
「なわけないでしょ!宝くじ当たる確率よりも余裕で低いんだから!!」
怯える彼女を私が慰めると、すぐに元気を取り戻し
「そーだねっ!じゃあ私も宝くじ当てれるかな!」
慰めの言葉に返事した彼女の答えは合ってるか合っていないかというよりひとつ抜けているように感じた。
少し楽観的すぎるのも問題なのかなとは思ったが、それこそ彼女の魅力でもあり、素敵な所である。
私は絶対的に彼女を尊敬している。
教室に着くと、あの事件のことで騒がしかった。
恐怖に意識を奪われ、近くの人間にしか聞こえないような声量で皆が話している。
いつ自分の隣にいる人、または自分自身が消えてしまうかわからないからだ。
その空間の中でアイツはまた話しかけてきた。
「よぉナミハ!神隠しには気をつけたまえ〜」
うるさい。非常にやかましい。
私がそう感じるこのアホの名前は「東郷タツヤ」私と同じただの普通の高校生。
なんの特徴もない、強いていうならサクラより圧倒的に頭が足りてない、抜けてる所が多い、間抜けで、あんぽんたんで、ドジを極めた青年だ。
人から見たら好青年かもしれない。彼がどの人よりも純粋なのは誰もが認めている。
「今日も変な絡み方だね、相変わらず」
「それが俺の十八番さ!」
ヘヘッって笑うその顔に一発入れてあげたいくらいの清々しい笑顔。
でも、あまりにも良い笑顔だったので今日も手が出なかった。私はなんやかんや言ってもタツヤのことは好きだ。
誤解しないでほしい。好きというのは一人の男性としてではなく友達としてだ。
私の乙女はこんな間抜けな顔をしたやつには捧げられない。
清く正しく美しいからだ。
自分で言ってて情けなく感じてくるが、そこは気にしてはいけないみたいだ。
こんな不思議な友達に囲まれて生活している。
楽しい日常、この人達が周りにいてくれるなら私は苦しむことなく平和に長生き出来そうな気がする。
そんな先の人生を考えるほど自分の今の心情には余裕があった。
そうして過ごしているうちに学校は終わった。
時間の流れは時としてはやく感じる。
刻む時間は世界共通であらゆる万物が流れを感じる力は同じだというのに気持ちの入り用ではここまで変わるのかと不思議に思った。楽しみがあると余計にそう感じてしまうのか。
今日はサクラの家から招待が来た。
パーティーのお約束だ。
3人だけの秘密のパーティーだが、彼等彼女等と遊ぶ特別な時間は私にとってはかけがえのない宝物だった。
学校からそのまま彼女の家に行こうと、私とサクラとタツヤで歩いていた。
歩いていた。歩き。
そう、歩きだ。
徒歩だ。
--私はこの時歩いて帰ろうと彼女らに提案してしまったことを生涯をかけて後悔することになる。
「今日は私からの招待だぞ! 嬉しいだろ!」
「はいはいそうですねー、私はとっても楽しみに感じてマース」
「絶対感じてなさそうじゃん!」
「まあまあお前らそう急ぐなって! 俺みたいに寛大な心で歩こう!」
いつものように私の適当な返事に振り回され、目を見開きながら指摘するサクラ。
そして、そんなサクラは関係ないと言わんばかりに阿呆の極みを見せつけるタツヤによって、半ばコントのようなものが行われていた。
しかし、そんな誰もがみて微笑ましい光景の中、ただ一人。私、潮風ナミハは朝の神隠し事件が気にかかって仕方がなかった。
正直、今の楽しみな未来を一時の恐怖で邪魔をしてほしくないと心の底から思っているが、やはり神隠し事件のような特別な類のものには人知れない何かの干渉を感じてしまっている。
本の読みすぎだろうか。
それとも、
「ナミハー?大丈夫かー?」
「あ、あぁ!ごめん!」
だが、自分を呼んだ2人は不思議そうな顔でこちらを見て、その顔の奥は強ばっているような感じがした
「ナ、ナミハ、どうしたの?」
私は確かにサクラの声をハッキリ聞いて、その声に反応して振り向いたんだ。
どうしたのと本人が言う道理はないし、正直なサクラがそんな冗談を言うとは思えないが私はそんな事も忘れ、少々怒りのスパイスを乗せ、彼女に言葉を放った。
「ねえ!話しかけといてそれはないでしょ!」
2人の顔の奥が更に強ばるのを感じた。
自分の目で2人の顔が強ばってるのがわかるくらいには。
そしてサクラが激しく動揺しているのもまた、感じられた。
それはもう隠すような動揺ではなく、私自身に恐怖しているかのような感じだった。
「…ナミハ…私たち」
その言葉を聞いただけで自分に何があったのか分かった気がする。
分かった時には遅かった。
もう既に手遅れだったのだ。気づく前ですら。
「私たち—話しかけてないよ?」
確かに、声は後ろから聞こえた。なのに、異様なほどの視線が後ろから感じる。
普通、視線なんか分かりっこない。
なのにこの突き刺すような違和感を肌に感じ、振り返った。
そこには、背丈が小さい謎の人物が立っていた。
黒い服を身にまとい、一際目立つ被り物をしていた。
被り物には笑顔の顔文字が描かれており、その外見はまさしくふざけているようにしか見えなかった。
しかし、そのおふざけも恐ろしく感じるようになった。
今朝聞いた事件を思い出したからだ。
そして、それを確信に近く押し上げるのは自分の直感。
次の瞬間、眼前の生物に恐怖以外の感情を感じることは出来なかった。
そんなことを考えてるうちに、その男性は口を開き、ただ一言、
「
その言葉を聞いた瞬間、隣から鈍い音がした。
音のした先に目をやるとサクラが倒れていた。
私の意識が彼女に向いた時、今度は後ろで音がした。タツヤが仰向けで倒れている。
私はこの状況を理解することが出来なかった。
しかしこの度々起こる超常現象によって、疑惑は核心へと変貌を遂げたのだ。
瞬間、謎の脱力感に襲われ、そのまま真っ暗な世界に意識を連れ去られてしまった。
-「………ハ………ミハ……。」
頭に突き刺すような刺激が続く。
頭痛のようなものを感じ、私は目を覚ましたくとも覚ませない苦しい状態にいた。意識が朦朧とする。そして痛い。
「ッ……ナミハッ!」
自分の名前を呼ぶ聞き覚えのある声で意識を取り戻した。目を覚ました時に、眼前にいたのはあの男ではなく
「……サクラ?…タツヤは…?」
「俺もいるよ…ちっと頭が痛いけどな…」
タツヤも同じような症状を感じていたことに少し安堵した。
あの激しく苦しい痛みは自分だけではないのだと。
しかし、そんなことも束の間、目の前の光景で痛みなど忘れてしまった。
目の前に広がるとてつもない物体。
その建造物に対し、私は自分の直感は間違っていなかったことを嫌という程、思い知らされた。
「ここは…学校……?」
古びた感じのコンクリート製の学校。
だが、そこからは異様な気配を感じた。
何か触れてはいけないもの、なにか見てはいけないもの、感じてはいけないもの。
そんな感じの鳥肌が立つような悪寒。
周りはまるで真夜中なのかという暗い黒の景色に包まれており、身につけていた時計の針は常に別の時間を指すかごとく狂ったように回転しており、この空間では時間の概念が存在しないかのような動きをしていた。
私たちは目の前に広がっているあの校舎の光景を未だに受け入れられずにいた。
「本当に…どこなの? ここは…?」
そんな最初で最後の冗談を口から呟いた時、私は気づいた。周りにはサクラやタツヤ以外にも「
何より、ここにいる皆が全員若々しく、同年代のように見えた。
「ねぇ、ナミハ…? 私たちどうしたの…??」
「わか、らない…。わからないよ…」
明らかな異常。
何が起きたか、まだ若い少女たちには整理など付けようがなかった。
「本当に…ここはどこなの?」
ナミハは気づいていなかった。
これが、あの事件と同じだと。
地獄が始まったのを、彼女は知らなかった。
--抗う
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