転生ブッコローしか知らない世界 ~競走馬に踏み潰されたミミズクがイメケン魔術師に転生して亡国の王女ザキをブンボーグ王にする話(序章)~

NIWATCH

プロローグ 競馬場で死ねたら本望

家族の次に愛した競馬に、殺されるなら本望――、なワケあるかい。


最終レース、最後の直線。その日、負けがこんでいたせいだろう。無意識に馬券を強く握りしめていた。


――来いッ! 来いッ! 来いやあああああああああああ!!!


この瞬間。この熱狂のために生きている。


地鳴りのように押し寄せる蹄の音が、日々のストレスを爆散させる。


躍動する筋肉のうねりに、熱い涙がこみ上げてきた。


もっとだ。もっとくれ。


血湧き肉躍る興奮を。果てしないドラマと無限の夢を。


命を駆ける美しさと、命を賭ける醜さを。


ようこそ、ここは世界の縮図。宇宙の心理が集う場所。


ここで死ねたら、本望。


――来たッ! 来たッ! 来たああああああああああああ!!!


興奮が心の叫びと共にピークに達した時、ドン!っと強い衝撃が走った。


――何だ?


フワリと宙に放り出された感覚。


――どこかのオッサンに突き飛ばされた?


翼を使ってバランスをとりたかったが、馬券を握りしめていたせいでできなかった。


当たり馬券かもしれないのだ。死んでも離すわけがない。


重力のままに落下し、不貞腐れたように地面に転がる。


しかし、次に視界に入ったのは、こちらに迫ってくる筋肉と蹄の洪水。


博徒の夢を乗せ、その業を体現した、黒き濁流。


馬、馬、馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬。


心臓が凍るほどの怖気で、ピクリとも動けない。


――やだッ! やだッ! 来ないでええええええええええ!!!


死は、覚悟を待たない。


そこで、一匹の競馬好きミミズクの人生は、無惨に散った――。

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