七七七はくすぐったくうごく

羊蔵

七七七はくすぐったくうごく


「七七七は虫だよ」

 先輩を訪ねて来た男はそういった

 七七七が何なのか、私には分からない。


 先輩は休憩を取って話をした。友人とも違う不思議な親密さがあった。

「ついに人間だよ」

 自殺死体を見つけたのだと男性は切り出した。

 そして、そもそもの原因である夜祭りの話をした。


 縁日の裏手で老人が手招きしていた。

 ついて行くと箱を見せられた。

 仕切りの中に宝石みたいな物が整列している。

 祭りの灯りではよく見えない。

 身を乗り出した時、老人が箱を落とした。

「ぶつかった覚えはないけどね」と男性は付け加えた。

 輝く物が散った。

「ああ、ぐちゃぐちゃだ。手伝ってくれるかい」

 少年は自分の所為ではないとも思ったが従った。

 が、最後の一つが見つからない。

「七七七がいなくなってしまったねえ」

 老人はそう繰り返した。

 その顔が少年には笑って見えた。


「拾ってて気づいたがあれは虫だった。玉虫や黄金虫が宝石に見えたんだ」

 では七七七はどんな美しい虫だったのか無性に気になった。

「七七七という札は思い出せる。でも色や形となると七七七は頭の中を逃げていってしまう」

 七七七欲しさに昆虫採集が趣味になった。


「この男はね、昆虫採集に行くたび死体を見つけて来るんだよ」と先輩。

 最初は小動物だったのが、犬や猿と高等化しているのだそうだ。

 乳牛の死体を見つけたことさえあるという。

「で、ついに人ですか」

「嫌になる。死体ばかりで肝心の七七七がみつからない」

「七七七なんてない。悪意ある冗談にはまったのです」

「その手には乗らない。死体をどう説明する? 七七七へ近づいた証だよ」

 そういって彼は七七七と繰り返した。

 その確信と執念がどこから来るのか私に分からない。


「次は発見報告を聞かせるつもりだ。まあ君も頑張れ」

 謎の捨て台詞を残して彼は去った。

「次は、無いかもしれないね」

 先輩は長い溜息をついた。

 次にあの男の人は何を見つけてしまうのだろう?

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