第6話 野球部員集結
「よっしゃー、あと一人、あと一人。柳澤先輩にはライトやってもらうとしてあとはセンターか」
思いの外順調に事が運んでいるためか、良ちゃんのテンションはいつにも増してハイテンション状態になっていた。
「センターっていったら、絶対足が速い人ですよね?」
「太田先輩。誰か陸上部に適任者いないですか?」
「!!」
僕と良ちゃんの問いかけに太田先輩と松井先輩は何か思い当たる人がいるようだった。
「足が速いって言ったらアイツしかいないじゃん!」
「待ってろ、すぐ連れて来るから」
そう言って走り出して行った。
「山下隼人のこと言ってんのかな?」
「だろーね」
久保先輩、藤井先輩も思い当たる人がいるようだった。
「速いんですかその人?」
「もう無茶苦茶速いよ、県内一じゃないかな」
「そんな速い人うちの学校にいたんですね?」
「でもそんなに速いんじゃ。陸上やめてくれないんじゃないですか?」
良ちゃんが心配そうな声を上げる。
「隼人なら話せばすぐ来てくれるよ」
「ホントですか?」
「好奇心の固まりみたいな奴で、新しい事にすぐ飛びつくから」
「じゃあ、もしかして、ついに、ついに9人揃うってことですか?また野球出来るんですね?」
良ちゃんは全身で喜びを表現し踊りはじめてしまった。
「ホント、良ちゃんの行動力には感服します」
「そうでしょ、そうでしょ、最初っからそう言ってよ」
「ダメですよ。久保先輩、コイツすぐ調子に乗るんだから」
「まだ言うかお前は、お前はもう交ぜない」
「嘘、嘘、ごめん、ごめんって」
「でも康誠交ぜなかったら8人になるけどな」
藤井先輩から的確なツッコミが飛んだ。
「そうだぞバカ、丁重に扱え」
「急に強気になんなっ!藤井先輩の助言がないとお前は何もできないのかっ!」
僕達二人の急な思いつきで始まった野球部結成だったが、あれよあれよという間に人数が揃ってしまった。
野球部が無い高校だったため、部活なんてなんでもいいから適当にやろうと思っていたのだが、また大好きな野球が出来るかもしれないと、胸を弾ませて野球部のグラウンドへ向かい朗報が来るのを待つことにした。
「おーーーい、おーーーい」
元野球部のあったグラウンドに到着すると、早々に遠くから太田先輩の声が聞こえてきた。声のトーンは明らかに高めだった。
きっと上手くいったのだろうと期待に胸を弾ませながら声が聞こえてきた方角に目を向ける。影が三人見える。
どうやらスカウトは上手くいったみたいだ。
「おーーーい、おーーーい」
良ちゃんは待ちきれないようで大きな声を出し三人の方へ目一杯手を上げ、大きく左右に振りながら答えていた。
「山下隼人です。よろしくお願いします」
近くまで来てそう自己紹介してきた山下隼人はクリクリした大きな目が印象的で、手足が細く絞られているのに筋肉はしっかりついているそんな感じだった。
凛とした佇まいが良いところのお坊ちゃんを連想させる。人懐っこい感じの明るい笑顔をしていて、性格の良さと人当たりの良さを感じさせる印象だった。
僕と良ちゃんが簡単に自己紹介をしていると、また遠くから声を上げ走って近づいてくる人影があるようだった。
「おーーーい」
見た事がない顔だった。同じ1年生ではないと思われる。誰の知り合いなのだろうか?
「祐ちゃんじゃん!?どうしたの?」
太田先輩に祐ちゃんと呼ばれたその生徒は高田祐希と名乗った。小柄で小動物を連想させるような愛着のあるの感じで、小麦色の肌をしていた。透き通った目はその方の心の純粋さを表しているように綺麗だった。
「なんか、野球部作っているって聞いたから急いで来たよ、はぁー、はぁー、僕も交ぜてよ、、」
走って来たためか激しく息を乱し、両膝に手を付け前屈みになりながらそう言ってきた。ぜひお願いしますと言おうと思ったが、何故だか先輩達の様子がおかしいような気がする。
祐希先輩の発したその言葉に先輩達は朗かに困惑し口ごもっているので、良ちゃんが代わりに答えた。
「大歓迎ですよ。是非一緒にやりましょう」
そう答えへ祐希先輩に手を差し伸べ、その手をしっかりと握り満面の笑みを浮かべていたのだが、先輩達はまだ困惑しているようで何か様子が変な感じだった。
「良太、祐希はダメなんだよ」
松井先輩が暗い顔で申し訳なさそうに言った。
「なんでですか?」
「高田はね生まれつき片方の目の視力がほとんどなくて野球は無理なんだ」
不思議がっている良ちゃんに藤井先輩がそう付け加える。
「別に選手じゃなくて、マネージャーでも球拾いでもなんでもするから」
懇願するように仲間に入れて欲しいと言ってくるが、先輩達は明らかに返答に困り、お互いの顔を見合わせていた。
「交ぜてあげましょうよー」
「いやー、だって、悪いじゃん」
「先輩だけに球拾いとかさせませんから、俺と康ちゃんも一緒にやりますから」
そう言いながら僕の方を見てくる。当然僕もその意見には賛成だったので大丈夫だよと言わんばかりに大きく頷いた。
戸惑っているような感じだったが、最後は良ちゃんの押しに根負けしたようで受け入れてくれた。
「よし分かった。じゃあ!交ぜてあげようよ。マネージャーが居てくれたことに越したことはないしね」
太田先輩の一言でようやく全員が納得したようだった。
「うんそうだな。でも祐希、無理はするんじゃねーぞ」
藤井先輩が祐希先輩の肩を掴みながらそう言った。
「うん。皆んなありがとう。それで、さっそくなんだけど、すっごい情報があるんだ!」
祐希先輩は目を輝かせてそう言ってきた。
「すごい情報?」
「中村将大の事なんだけど」
「中村将大ってあの暗くて何も喋らないやつ?」
中村将大とは今年の春から転入して来て、まだクラスに馴染めずにいて一人で居ることが多く、クラスメイトともほとんど会話は無いようなのでどういう人物か皆んな知らないのだとか。
「その中村先輩がすごい情報なんですか?」
「そう。実は凄い奴で中体連の全国大会で、けっこう上位になったチームの四番だったらしいの」
「えーっ!ビックリなんだけど!体つきはいいから何かスポーツやっているんだろうなっては思ってたけど、野球だったのか!」
「松井先輩、そんなにいい体つきしているんですか?」
「いやー、腕とかまじ太いよ」
「うっそーマジで!?」
「ほんと、ほんと。どう?スカウトしてみない?」
「えー、でもなんかあの人怖い、、」
祐希先輩は乗り気のようだが、久保先輩はしり込みしている様子だった。
その話にずっと聞き耳を立てていた良ちゃんがそこで遂に声を上げた。
「そんな凄い人なら是非仲間にしたいです」
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