第4話 全員赤くなる
バドミントン部のある第二体育館、そこからは威勢のいい掛け声が響き渡っていた。
ゆっくり近づいて行くと汗を拭っていたり、筋トレをしている部員の姿が見られはじめた。その中を良ちゃんは躊躇なくどんどん二人の姿を探し奥へと進んでいった。
久保竜二先輩と藤井翔真先輩は一番奥のコートで激しくシャトルの打ち合いをしているようだった。
「はやっ!」
良ちゃんは高速で行き交うシャトルの迫力に圧倒されてしまったようでそんな声を上げていた。
久保先輩が奥の方、藤井先輩が手前側にいる。
大きく手を振ってアピールすると、奥にいる久保先輩がこちらを見つけたようで動きを止め、器用にシャトルを回収し、小走りで向かって来た。
久保竜二先輩は夏生まれなのに色白で透き通るような肌をしている。控えめな性格で、はにかんだ笑顔がとっても爽やか。おっとりしてそうに見えるが、思いの外しっかりしていて人前でも堂々と自分の役割を全う出来るタイプだ。
藤井翔真先輩は長身で手足が長く頭も小さい。モデルをしていると言っても疑われることがないほどのスタイルをしている。目尻の下にある大きなホクロが、セクシーさをより際立たせていた。黙っていれば紳士といった感じの青年なのにひょうきんでそそっかしい性格をしていて、よく失敗するので自虐ネタを言って周りを笑わせてくるタイプだ。
「久保せんぱーーーい、藤井せんぱーーーい」
遠慮知らずの良ちゃんは体育館中に響くような大声で二人を呼んだ。二人が駆け寄って来る。今度こそうるさいって怒られてしまえ。
「良ちゃんじゃーん。久しぶりー」
「おっ!康誠もいるのか?」
「お久しぶりです」
「ちゅーっス、先輩」
「コラ!良ちゃん。今日は遅刻しないでちゃんと来たのか?」
一つ下の良ちゃんのことが可愛くて仕方ない久保先輩はここぞとばかりに『ぎゅっ』と、強く抱きしめてきた。
「せ、先輩、く、苦しいです。離してください、す、すみません。今日も遅刻しました、、」
「なんだとー!また遅刻したのか!」
良ちゃんのその言葉を聞くと久保先輩はますます強く抱き締めているようだった。
「せっ、先輩、苦しいですって、、」
「きゃははははは」
今にも落とされてしまいそうなくらいに苦しんでいる姿を見て笑っていたら、僕の事を羽交い締めにしてくるように誰かの腕が伸びてきた。
「何笑ってんだよ!」
藤井先輩だった。
久保先輩も藤井先輩も二人とも昔から必要以上のスキンシップをしてくるタイプの先輩だった。別に嫌ではないのだがあまり長い時間くっついていると、誤解されてしまうかもしれないので止めて欲しいものだ。
「先輩、痛い、痛い、苦しいです」
そこに太田先輩と松井先輩が追い付いて来た。
「何やってんのー!変態プレイ?」
太田先輩がいちゃついてる4人を見て呆れ顔をしてそう言ってきた。
「あれー?晃ちゃんまで!なんでこんなとこに?何かあったの?」
太田先輩の登場により久保先輩はようやく良ちゃんを離し解放したようだった。
僕も藤井先輩からの羽交い締めからようやく解放され、ホッと胸を撫でおろす。
「あー、苦しかった。先輩野球部入りませんか?」
良ちゃんは解放されるとすぐにその言葉を発した。
「えっ!?野球部って?どこの?」
うちの学校に野球部が無い事を知っているので、当然そういう反応になる。そこへ松井先輩が付け加えてくれた。
「うちの学校で野球部を作ろうってなって、今人探しているんだよ。どうかな?」
松井先輩は二人がどんな反応をするか不安だったのだろう。いつもからは考えられないようなか細い声でそうに訪ねていた。
驚いた表情を見せた後、二人は目を合わせ頷いた。
「ホントにー!」
「マジかよ!サイコーじゃん!やろう、やろう」
「えっ!?良いの?だってインターハイで優勝してやるって意気込んでたじゃん」
意外な反応に驚きを隠せずそう言っていた。
「いやー。でも、昔から野球大好きだったし、野球部無いからバドミントン部に入っていたけど、また野球やりたいなーって、話したりしてたんだ」
「そうだったんだ!」
「やったー。じゃあ決まりですね」
話がまとまったところで良ちゃんはそう声を上げた。
「人集めているって、何人くらい集まってんの?」
「何人って、ここに居るだけですよ」
良ちゃんは久保先輩の質問に飄々と答えていた。
「えっー!?」
9人に全然足りてないのだ、当然そのような反応になるだろう。
「ここにいるだけって、俺と竜二と晃弘と貴洋に良太と康誠だけってこと?」
藤井先輩も困惑した表情だった。
「そうです」
「そうです。って6人しかいないじゃん!」
「あと3人くらいどうにかなりますよ」
「きゃははははは。良ちゃんはノー天気の行き当たりばったり屋さんだから」
「なんと言っても遅刻しても全く悪びれない大物さんですからな」
一同はその松井先輩の皮肉った言葉に大笑いし始めた。
良ちゃんは『カーっ』と真っ赤になって膨れっ面をする。そしてぶっきらぼうに言った。
「松井先輩だって大物ちゃ、大物じゃないですか?」
「は?何でだよ?」
「横とかお腹の辺りがこう」
そう言いながら両手を広げ、お前はデブだろって言わんばかりのポーズをしていた。
また一同に爆笑が広がる。松井先輩は『カーっ』と赤くなる。
「なんだとー!」
良ちゃんに掴みかかる。
「止めろよー」
掴みかかろうとする松井先輩を藤井先輩は止めに入る。が、、。
「うるせー!顔にやる気スイッチがある奴は黙ってろ!」
また爆笑が広がった。
「はー!これはスイッチじゃないし。人のチャームポイントをコケにしてんじゃねーよっ!」
藤井先輩は自分の顔のほくろをいじられ、『カーっ』と赤くなって松井先輩に掴みかかっていった。
掴みかかろうとする藤井先輩を久保先輩が止めに入る。しかし藤井先輩の興奮は止められなかった。
「邪魔!絶壁顔はあっちいっとけ、ボケ!」
「ぜっ、絶壁って、人が気にしていることをーっ!」
久保先輩は鼻が小さめなのでそう言ったのだろう。そう言われ久保先輩は鼻を押さえながら、『カーっ』と赤くなり、藤井先輩に掴みかかる。
掴みかかろうとする久保先輩を太田先輩が止めに入った。しかし興奮している久保は止まらなかった。
「いつまでも訛りの抜けない田舎者は引っ込んでろ!」
大きな爆笑が広がった。
「ムっかー!しょうがないでしょ!これは個性!個性は尊重するべきだー!」
太田先輩は久保先輩に掴みかかる。その間ずっと僕は皆んなの中心で、もみくちゃにされていた。
「キャハハはは、皆さん落ち着きましょーよー」
もう収集がつかない状態になってしまった。
「うるさーーーいっ!喧嘩なら外でやれーっ!」
「!!」
体格の大きい体育会系の教師にどやされ、全員が瞬時に固まってしまった。
いや、そんな剣幕で怒鳴らなくても、、。
「すいませんでしたー」
僕達は頭を下げ、すごすごと体育館を後にするしかなかった。
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