これはなあに?

嶋田ちか

ママ

私は28歳、幼稚園の先生。

かわいい子供たちに囲まれて、今日も働いている。


「ひまわり組のみなさーん、今日は粘土で遊びましょうねー」


今日の工作は粘土で、テーマは『自分の好きな物』。

子どもたちはそれぞれ黙々と作業している。


子どもの好きなものと言えば、だいたい想像がつく。


ゲーム、ペット、おもちゃ、ぬいぐるみなど、子どもの身近にあるものが多い。


どのくらいできたかな、と子ども達のそばをうろうろしてみると、1人だけ珍しいものを作っている子がいた。


細い棒が3,4本、上に丸いものが付いていていた。


「なにつくってるのかなー?」


興味本位で男の子に聞いてみる。

すると、


「ママ」


その子は素っ気なく答えた。


なるほど、言われてみれば棒人間のようにも見えなくもない。


幼稚園の先生として大事なことは否定しないこと。


「素敵だね。完成が楽しみだなあ」


と声をかけて他の子の様子を見にいくことにした。




数十分後。



工作の時間は終わり、明日の参観日に向けて教室後ろの棚に作品を飾ることになった。


子供たちからひとつずつ、作品を受け取って棚にのせる。


くまのぬいぐるみ、カブトムシ、ポケモンなどかわいい作品が続く中、ぐちゃっと潰れた作品を渡された。


驚いて渡してきた子どもの顔を見ると、先ほどの男の子。


平たくなってしまったと言うよりは故意にぐちゃぐちゃにした感じ。

恐らくグーで何回か潰してる。


びっくりして

「ママ潰れちゃってるけど大丈夫?あとで作り直そうか?」

と聞くと、


「大丈夫。これで完成」

またも素っ気なく答える男の子。


まあ子どもがいいならいいだろう。表現力にも色々あるし。


そう思って棚に飾り、その日は何事もなく終了した。



次の日。

パパやママが子どもの様子を見に来る参観日。


いつも旦那の愚痴で盛り上がっているママさん達だったが、今日は別のことを噂しているようだった。


「あそこのママの話聞いた?」


「え、なんかあったの?」


「亡くなったんだって。パパさん、ママさんのことDVしてて逮捕されたらしいよ。毎日ボコボコ殴ってたって。」


「ホントに!?子どもかわいそうだね、そんな場面見せられてトラウマになるかも」


「それがね、その子も一緒に殴ってたんだって。逮捕される時に見てた人の話だとすごいニコニコしながら殴ってたみたい。怖いよね。」

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これはなあに? 嶋田ちか @shimaenagon

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