ぐちゃぐちゃな夜

霞(@tera1012)

第1話

「『俺、もんじゃ焼けない女とは、付き合えないんだわ』だって!」

「うんうん、それは斬新だ」


 ヤマト先輩はガチャガチャとコントローラーを操作しながら、生返事する。


「もんじゃだよ、もんじゃ。あんなのに、正しい焼きかたもクソもないじゃん。ただのぐちゃぐちゃじゃん。なに、土手って」

「ドテ?」

「まず土手を作るんだって」

「へえ、……街作りゲームみてえ」

「もう! 何でもゲームゲーム! 話ちゃんと聞いてない!」

「聞いてるじゃん。貴重な時間削って、返事までしてるじゃん」

「先輩のばか、帰る」

「は。今、何時だと……」

「他に泊めてくれる人の一人や二人、いるもんねー」


 急にガチャガチャが止まり、先輩が振り返る。


「――分かった。送ってく」

「は……」


 なんなの、このひと。

 

「先輩のばか。もうやだ。もう……」

 

 あたしはべそべそ泣き出してしまう。

 もう、疲れてしまった。本当は、今日会った人と付き合うつもりなんてなかった。その前の人も、その前も。いつも何かが違うと、途中で思ってしまう。

 そしてまた、この部屋に、来てしまうのだ。


「あたまぐちゃぐちゃだよ、もう……」


 無言。あたしの鼻のグズグズだけが、部屋に響く。


「……なあ。頭ぐちゃぐちゃなのは、こっちなんだけど」


 びっくりして、涙が止まった。


「……先輩も、あたまぐちゃぐちゃに、なるの……?」

「お前が目の前で急に泣き出して、ならねえわけねえだろ。なあ俺、どうしたらいい? お前を泣かした男、殺しに行けばいい? そしたらこの俺のモヤモヤぐちゃぐちゃは、治まるわけ?」


 私はポカンとする。シリメツレツだ。


「先輩……私を泣かせたのは、先輩だよ」

「は……」

 先輩は、薄く口を開いて、本当に訳がわからない、という顔をしていた。

 

「先輩、ほんとは、頭良くないんだね」

「……」


 なんだ、このぐちゃぐちゃな二人。

 私は、ぐちゃぐちゃな顔のまま思い切り笑うと、先輩の胸にダイブした。

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