『続 葵さん』

やましん(テンパー)

第1話 『再会』 その1

 『これは、フィクションです。前作『葵さん』と、多少設定が違うところがあります。ご了承くださいませ。』




 退院して以降、体調は小康状態だったけれども、原因不明の頻尿や、血尿、それに付いてくる痛みに苦しんでおりました。


 明治、大正時代ならいざ知らず、この科学隆盛時代にあっても、原因がわからないというのは、いささか、拍子抜けではありました。


 しかし、たくさんのお薬を飲んだあげく、原因はまだ分からないものの、3月になり、やっと体調は落ち着いてきておりましたが、こんどは、医療費や物価高や、まあ、世の中、色々ありまして、ついに、貯えも無くなってきまして、先行きは、明らかな赤信号になっております。少しずつ、本とかレコードとか売って、その日の食費の足しにしていました。


 そんなときに、院長先生から、『環境整備』のアルバイトをしないか? と、誘われたのです。


 なにしろ、山の上の、広大な敷地がある療養施設付属の病院ですから、草むしりだけでも、やることは、沢山ありそうでした。


 しかし、事前面接の時に、院長先生から、こんなお話しがありましたのです。


 『じつは、あなたに来ていただきたいのには、もうひとつ、理由があります。』


 『はあ、そりゃまた、なんでしょうか。』


 『あの、葵さんが、まだ、出るのです。それも、以前にまして、頻繁にです。さらに、葵さんを見たという人に、体調不調を訴える患者さんが増加しています。葵さんのせいだと、みな、言うのです。呪いなど、科学的にも、医学的にも、あり得ないのですが、集団心理的には、まったく無いとは言えません。あなたは、たしか、葵さんと、会話したことがあると、おっしゃっていましたね。』


 『会話と言っても、あなたのお名前は? と、尋ねたら、『葵。』と、答えが来た、だけですが。』


 『それだけを出来たのが、いま、生きていると、分かっている人では、あなただけなのです。古い看護師さんには、会話したことがある人がいたことはわかっていますが、その方の消息は、不明です。もちろん、いくつかの対策はいたしました。監視カメラを最新型にしたり、照明を明るくしたり、さらに、職員さんたちの要望もあったので、お祓いまでいたしました。しかし、変わりはありません。もし、可能ならば、葵さんに、なにをしてほしいのか、尋ねられたら、よいのですが。もちろん、無理は申せませんが。』


 『葵さんは、恋人を探しているだけでしょう? それも、先生のお話からしたら、戦死した方です。どうしようもないかもですね。』


 しかし、ぼくは、引き受けたのです。


 それは、もちろん、あの、葵さんに、また、会いたいから、なのでしたが。



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