【純恋】Episode8 入学式

入学式は13時から開始だった。

私は、2時間ほど早く冬華お姉ちゃんの家を出た。

午前に行けば、徹くんに会えるかもしれない。

西高に辿り着くと、私は行き交う生徒に話しかける。


「すみません、濱出 徹を知りませんか」

「ご、ごめん知らないな」


そういって聞いていくが誰も知らないと言われる。

どうして?

同じ学校に通っているはずなのに。

もしかして、いまの徹くんって目立たない感じになってるのかな?

前は、すごく目立っていたのに。

お休みの間も聞きまわったけど誰も知らなかった。

どこにいるんだろう、徹くん。


「純恋!」


その声に振り返る。

そこには、お父さんがいた。

随分と久し振りに会う気がする。

そのお父さんの横には那留さんがいた。

二人共スーツ姿だ。


「なんでいるのよ!」

「俺は、お前の入学式に参加するためだ」

「お父さんはそうだよね、でもその人は?」

「那留さんも純恋の入学式に参加するんだ」

「は?なんで」


ただの他人に祝われたくない。

なんで、そんなことになるの?


「将来、純恋のお母さんになるからだ」

「わたし、認めないから」


私は、そういって校舎の中に入っていく。

職員室へ向かおう。

そこでなら徹くんのこと分かるはずだ。


「すみません、濱出 徹くんは在学されてますか?」

「濱出・・・濱出 徹だと!!忌々しい。

せっかく死んで清々してるのにいまさらその名前を出すな」


職員室からそんな声が聞こえてきた。

徹くんが死んだ。

え、どうして。

どうして。

どうして。

もう、私には何もなくなっちゃた。

お母さんも。

徹くんも。

お父さんも。


私の足は屋上に向かっていた。

屋上に辿り着いたとき、私の腕を誰かが掴んだ。


「純恋ちゃん、どこにいくつもりなの」


那留さんが私の腕を掴んでそう言っていた。


「貴女に関係ないでしょ」

「関係はあるわ」

「ないです。

貴女の所為でお母さんはなくなったんだ。

貴女だったんでしょ、お父さんの不倫相手!」


無言。

それは肯定ってことでしょ。

私は、お母さんが不倫をしてたなんて思えなかった。

全部この人がお父さんに吹き込んだこと。

お母さんは、不倫をしてなかったけどお父さんはしてた。

全部、お母さんに罪を擦り付けて。

お母さんは、それで自殺をした。

私は、那留さんの腕を振りほどいて屋上の手すりまで走る。

でも、すぐに追いつかれた。


「知ってしまってたのね。

でも、それでもあの人のこと認めてほしいの」

「絶対に嫌!」


私達は、もみ合っていた。

ガシャンとフェンスの音がする。

そして、気づいたときには私たちは空を舞っていた。

屋上のフェンスが外れていた。

壊れていたのかな。

ああ、これで徹くんに会える。

今行くね、徹くん。


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純恋の父親は、この時後ろで全てを見ていました。

そして、任意同行で警察に連れていかれました。

那留は、半身不随になりその後、純恋の父と添い遂げます。



【純恋】Episode Fin

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