第47話 許婚と誓いの指輪

7月20日。

高校最後の夏が始まる日。

僕は、冬華と出かける約束をしていた。

同じ家から出かけるので大したことはない。

先月僕は、車の免許を取得した。

実は、僕の誕生日は先月の30日。

最近は、学校と夜しか冬華と一緒にはいられない。

「優一、お待たせ」

冬華が、水色のワンピースを着てやってきた。

「今日も、よく似合っているね。可愛いよ」

「えへへ、ありがとう。優一も似合ってるよ。カッコいい」

僕は、水色のワイシャツに白いパンツを履いている。

ダイニングにいる僕らの足元で二匹の猫がスリスリと身体を擦り合わせてきた。

「海くん、空ちゃん。今日は、遊べないの。

帰って来てからね」

去年、拾った仔猫たちはすっかり大きくなった。

ちょうど雄と雌だったので。

オスがカイ、メスがソラという名前になった。

「今日は、そんなに遅くならないから待っててな」

「あれ?そうなの」

「うん、夕方には戻って来るよ」

いまは、お昼過ぎ。

だから、ちょっと短めのデートである。

冬華が残念そうな顔をする。

「冬華、今日は短めだけど今度長めにデートしような」

「うん」

実は、両親たちには今日指輪を渡すことは言ってある。

だから、夜はパーティーをすることになっているんだ。

それで、飾りつけとかあるから出かけて、そこで渡して来いと言われた。

「じゃあ、いこうか」

「はぁい」

僕は、冬華の手を取って玄関へと向かった。

いまは、みんな隣の家へ行っている。

今日は、向こうでパーティーをするからだ。

「冬華、今日は車で行くからね」

「え、優一の車?乗っていいの!」

「もちろん、冬華が最初じゃなきゃ」

実は、僕の車は昨日納車したばかりだったりする。

車は、親たちからのプレゼントである。

まさか、こんな頂物をするとは思ってもみなかった。

「えへへ、嬉しいな」

「今日は、納車したばかりだからドライブを冬華と行きたかったんだよ」

「あ、それで短めなんだね。優一も運転長時間慣れてないから」

「うん、そういうことだよ」

ホントの事を混ぜた口実である。

間違ってはないから大丈夫だ。

車を開けると新車の匂いがする。

「冬華、海と山どっちがいい?」

「う~ん、海かな」

「オッケー、海方面へ行ってみよう」

僕は、海方面へと車を走らせた。


30分ほどして海岸沿いに辿り着いた。

海の見える道の駅。

そこが目的地だった。

道の駅には、展望台がある。

そこで、指輪を渡そうと思っている。

「よし、到着。

ちょっと、散歩しようか」

「うわぁ、海がキラキラして綺麗」

「ね、冬華。展望台の方へ行こうよ」

「うん、ギュー」

冬華が、僕の腕に抱き着いてきた。

僕らは、その姿勢で展望台へ向かう。

ちょうど、展望台には人がいなかった。

「冬華」

「なに?優一」

「これからもずっとずっと僕のそばにいてくれる?」

「もちろんだよ、いくら歳をとってもお仕事で忙しくても私はずっと優一のそばにいたい」

「寂しい思いをさせることもあるかもしれないけど、そういうときは言ってほしい」

「うん、言うようにするね。優一も言ってね」

「ああ、もちろんだよ。

・・・だから、冬華」

僕は、冬華の目を見る。

彼女もまた僕の目を見た。

「結婚してほしい」

僕は、右のズボンに入れていたボックスを取り出して冬華の前で開けて見せた。

そこには、大きなダイヤモンドがあしらわれたリングが入っていた。

「はい、よろしくお願いします」

僕は、冬華の左手を取り、薬指に指輪を通した。

「えへへ、優一。ありがとう。ずっとほしかったんだ」

「ごめんな、待たせて。

どうしても、冬華の誕生日に渡したかったんだ」

「そういえば、誕生日だったね。ドキドキしてて忘れてたよ・・・あ、もしかして今日短めって」

「あはは、やっぱバレちゃったか」

冬華は、どうやら気づいたらしい。

まあ、仕方ないよな。

「誕生日パーティーするんだね」

そうして、サプライズは潰えたのだった。

まあ、僕としては指輪が渡せてよかった。

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