何の取り柄もないから俺の頭はぐちゃぐちゃだ

野林緑里

第1話

 なにをやっても上手くいかない。


 勉強もできず、運動神経も悪い。歌も超絶音痴でリズム感悪いからダンスなんてもってのほか。


 ほんとうに何の取り柄のない俺に将来があるというのだろうか。


 もうすぐ進路を決めないといけない時期だというのに、なにも決めることができず、俺の頭はぐちゃぐちゃになっている。



 なにもできない。


 俺にとってこの世の中は残酷なもので、いっそのことぐちゃぐちゃにしたい気分だ。なにもかもぐちゃぐちゃにして、できるやつもできないやつも混ざりあって、平均的に分けちゃえば劣等感に刈られなくてすむのではないか。


 そんなことを考えながら、ブラブラと渋谷を一人歩いていた。


 渋谷にはあらゆる人たちがごちゃまぜになってあちこちへと行き交っている。だれもが俺のような悩みをもたずに生き生きとしているようにしか見えず、それはさらに俺を地獄へと突き落としていくようだった。


 なんで渋谷なんてきてんだろうと後悔する。


 もう家に帰ろうと考えて踵を返して駅へ向かうことにした。


「きみ……」


 すると、誰かが話しかけてくる。


 おれ?


 いやいや


 知り合いなんていないぞ。


 何せ俺は大学受験のために上京して、受験が終わったからブラブラしている田舎者だ。東京に知り合いなどいるはずがない。


 だから俺ではないのだとそのまま歩いていこうとすると突然腕を捕まれた。


「だから、きみだよ! きみ!」


 振り向くとそこには一人の女性がいた。年はこれよりも年上で三十代前半といった感じだ。


「俺? 」


 周囲を確認すると再び女性をみると、真剣な眼差しで俺をみていた。


「君よ! 君! イケメンくん! 」


「俺ですか? 俺になにか?」


「きみ! モデルやってくれない?」


「はい?」


 突然現れた女性の申し出に俺の頭はまたしてもぐちゃぐちゃになった。



 俺には何の取り柄もない。



 勉強もできず、運動神経も悪い。歌も超絶音痴でリズム感悪いからダンスなんてもってのほか。


 だけど、なぜかもてる。


 いままでの18年間の人生で何度も女の子に告白された。


 だけど、何の取り柄もない俺にとって女の子と付き合うなんてもってのほかだった。


 友人にいわせれば、俺は長身でスタイル抜群の整った顔立ちのイケメンで羨ましいかぎりらしい。


 俺からいわせれば、友人のほうがよっぽどイケメンだ。たしかに友人は小柄なほうだが、成績優秀でスポーツ万能、人当たりもよい。そんな彼が18年間告白されたことがないのが不思議でならなかった。


「もし興味あったらここに連絡して」


 そういって、女性は名刺を渡して去っていった。


 俺が名刺をみるとそこには芸能界には疎い俺でもしっているような芸能プロダクションの名前が書かれていた。



 俺は首をかしげながら、名刺をポケットにいれると、駅の方へと向かった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何の取り柄もないから俺の頭はぐちゃぐちゃだ 野林緑里 @gswolf0718

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ