ぐちゃぐちゃな心
たから聖
第1話 俺の心
『誠司!!待ちなさいっっ!!』
『へ?!』
その一瞬だった。 ……ばぁちゃんに呼び止められた俺は、かろうじて人生の分かれ目に居た。
数十メートル先にいた父と母は、
あっさりとあの世に旅立ってしまった。
接触事故だった……。
18歳の頃、、妹も兄も居ない俺は最後の卒業式にも参加出来なかった。
そこから俺は狂った様に夜遊びしだすが、遊ぶ金欲しさにホストの門をくぐった。
初日……
『意外と気ー使うんすねホストって…女喜ばせてナンボかと思ってた笑』
先輩ホストは…タバコに火を付けて下を向いていた。
仕事以外は…寡黙な先輩らしい。だがオレは、先輩の沈黙すらも心地が良かった。
『コイツ何かあんのか?』
まぁいい。 仕事なんて所詮は金儲けの手段。オレは割り切って女と適当に遊んでいた。
ホスト業も慣れて来た頃に、ばぁちゃんが危篤状態になった。
オレにとってのばぁちゃんは
【命の恩人】なのだ。やはり見舞いに行かなくては、、、。
シャワーを浴びて香りを消す。何処をどうしても、やはり
『夜やってます感』が消えない。
(ごめんよ?ばぁちゃん。)
花束を持っても、如何にも。という見た目だったが勇気を出して
ばぁちゃんの居る病室へ向かった。
オレがノックすると、ばぁちゃんはたくさんの友人に囲まれながら最後まで生きようと人口呼吸器を付けながら荒い息遣いをしていた。
『お前!!?誠司か?』
急に名前を呼ばれ、そちらの方向を向くと父方の親だった。
俺のおかしな出で立ちにも目もくれずその人は握手をして来た。
『よぉ来て下さった。ありがとう。』とその人は深く頭をオレに下げた。
『ばぁちゃんは?!』と
オレが問いかけると、その人は首を横に振り、
ガックリと肩を落としていた。
花束を渡すと同時に…
『久恵さんから。渡されとったんじゃ…』
とボロボロの小さな紙袋を渡された。
中身を手のひらに出してみると……
~リーン~
と美しい鈴の音が響いた。
コロンとした、如何にもばぁちゃんが選びそうな可愛らしいデザインの鈴だった……。
『誠司くん。何時でも遊びに来てよ。わしゃ待っとるから…な?』
その人は…笑顔なのか泣き顔なのか分からないくしゃくしゃな顔をオレに向けた。
ばぁちゃんは…次第に息を荒くしながらも
その時は…刻一刻と迫っていた。
『大事な人には、真っ赤なバラを送るもんだぞ!誠司。ハハハ。』
母と父は…若い頃、
大恋愛をしてオレを産んだそうだ。
そう照れながら俺に話してたな?
ばぁちゃんの見舞いの花は病室に不釣り合いな真っ赤なバラだったが、その場に居たみんなが
喜んでくれた。
『ばぁちゃん、オレ!誠司だよ!ばぁちゃん頑張れ!生きろよ…!』
聞こえてるのか
聞こえてないのか?
ばぁちゃんは一筋の涙を流した。
ばぁちゃんの呼吸が更に荒くなる。看護婦達が慌ただしく動き回っている。
『関係者の方々!外へ!』
『ばぁちゃん!!』
リーン
リーン……。
『ばぁちゃん!!!オレ!!真面目に生きるから!頼むから死ぬなよ!!!』
ばぁちゃんは…たくさんの
袋から出した鈴を、ばぁちゃんに届くまで何度も何度もオレは
振り続けた。
(神様、頼むから。これ以上俺から大事な人取らないでくれ!)
『ホストも辞めるから!!!ばぁちゃん!!』
その時、父方の親がオレに涙を流しながら、こう言った。
『誠司くんや、、、仕事は何でもええだ。必要なんは心や。な?』
俺はヒザから崩れ落ちた。
その言葉は、ばぁちゃんも俺に小さな頃から良く話していた事だって、
暑い夏の日に。
俺は熱を出す……。ばぁちゃんはオレの額に手を押し当てながらも優しかった。
『誠司。負けんでない。大切なんは心や。な?』
子供の頃の俺にとっては、ばぁちゃんは…
スーパーウーマンの様に写った。
『うん、、、ゴホッ!ボク強く…なる!』
【あぁ、あぁ】
【誠司は…出来た子じゃからの】
いつの間にか背中が丸く曲がったばぁちゃんは…
悲しそうに仏様に手を合わせていた。
父と母を同時に失った喪失感を抱いていたんだと、俺は知る。
鈴がこぶしの中でコロンコロンと音を鳴らしている。
オレはぐちゃぐちゃな心でばぁちゃんを最後まで応援した。
◇◇◇◇
天を仰ぐと、ばぁちゃんの笑顔が見えます。
寡黙な先輩ホストは…俺の隣で優しく手を合わせて墓前に居た。
『セイジ!!』
振り向くとそこには誰も居ない。
オレは首を傾げる。
『さぁ、今日から仕事仕事!!先輩頼んますよ?』
オレが先輩に笑顔を傾けると、
先輩は……いきなりガシッと肩に腕を回してきた。
驚いたオレは思わず先輩のお腹にこぶしを一発かました。
先輩は…ニカッと初めてオレに
最高の笑顔を向けたのだった。
[完]
ぐちゃぐちゃな心 たから聖 @08061012
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