うっかり女神の転生ミスで、何でもぐちゃぐちゃにできるスキルを持たされましたが?

帝国妖異対策局

こんなスキルでどうしろと

「あっ、やってしもうた!」


 俺の身体が異世界への転移で薄くなり始めた直後、黒髪の美少女が口を押えつつ小声で叫ぶ。


 俺は、目の前にいる女神フランソルに「魔王を倒して欲しい」と懇願され、デレデレしながら軽くOKをした数刻前の自身を恨む。


「まっ、いいか!」


 女神の軽い口調と楽しげな表情を見た俺は、その瞬間、自分の選択が間違っていたことを悟った。


 この顔は色気を使って高額商品を売りつけることに成功した詐欺販売員が、ノルマを達成して喜んでいるときの顔だ! 間違いない!


 高額な絵画を4点も四畳半のボロアパートに飾っているちょろDTの俺が言うのだから間違いない!


 こうして、二度と好みの女の子に絵を勧められても買わないと固く心に誓いつつ、俺は見知らぬ異世界へと飛ばされた。


(その話、もう何回目ですか? そろそろ過去から目を放して、未来に向かって歩きませんか?)


 俺の頭の中で、支援精霊ホノカが文句を言った。


「いやいや、話はここからなんだよ! それで俺に与えられたチートが【なんでもぐちゃぐちゃ(生物以外)】って何だよ! こんなんで魔王倒せるわけないだろ! それに生物以外って、こんな使えねースキルでよくここまで生きてたわ俺!」


(えっ!? 生き物をぐちゃぐちゃにしたいですか?)


 ホノカがそんなことを言ったので、一瞬、俺は人間のグロ映像(モザイクあり)を思い浮かべてしまった。


「いや……それは……いやだけどさ」


(なんだかんだ言って、マスターはこのスキルを上手に使いこなしてきたじゃないですか。大丈夫ですよ! 自信持ってください!)


「正直、明日生き延びる自信はねーよ」


(ずっとそれ言い続けてますよね)


「まぁ、いいや。とりあえず飯にするさ。スキル発動! お肉ぐっちゃぐちゃ!」


(えぇぇ!?)


 俺はついさっき狩った異世界猪を捌いて、肉の塊をスキルを使ってミンチにする。今日の夕食はハンバーグだ!


(グロ画像をイメージした直後で、よくもそんなもの食べれますね?)


「モザイク入ってたから問題ない。それにこれは生物じゃないしな」


 ハンバーグを食しつつ、俺はホノカの言う通り、スキル【なんでもぐちゃぐちゃ(生物以外)】をなんだかんだ使いこなしている自分自身に驚いていた。


 例えば、先月はオークの集団に奇襲された。非常に統率の取れたオークたちだったが、俺が【統率】をぐちゃぐちゃにすると、彼らは一気にバラバラ、それぞれが好き勝手な行動を取り始めた。


 立て続けにいつも使う【敵味方ぐちゃぐちゃ】で、彼らが同士討ちを始める中、俺は一体一体を確実に仕留めて行ったのだ。


 さらに先週は、悪魔騎士の率いるパーティーに捕まってしまった。金髪碧眼の色男とそれに付き従う美女冒険者たち。俺はこの憎むべきハーレムパーティに【エッチな人間関係ぐちゃぐちゃ】を掛けてみた。


 俺としては、ここからエロいシーンが繰り広げられると期待していたことは正直に告白する。 

 

 だが実際はそうはならなかった。最初はちょっとした言い争いから、男の騎士を巡る喧嘩が始まり、そこからお互いの殴り合いが始まり、剣が抜かれ、魔法が放たれ始めた。


 そして最後には、お腹に致命傷を受けた女戦士が愛しい騎士の首を抱いて、眠るようにお亡くなりになられた。


 この惨劇の場面から逃れようと、縄で縛られた俺が抜け出すために必死でもがき続けた4時間は一生のトラウマになっている。


「「がおぉぉぉぉ!」」


 ハンバーグの匂いに釣られたのか、ワンダリングウルフの一団が襲ってきた。火を恐れないのは、よほど飢えているのだろう。


「獲物の対象ぐちゃぐちゃ」


 俺はワンダリングウルフの集団を指差してスキルを発動する。このスキルはある程度、具体的に対象やぐちゃぐちゃにするモノを指定しないと発動しない。【なんでもぐちゃぐちゃ(生物以外)】とかいいながら、色々と制限があるのだ。


 俺のスキルを受けたワンダリングウルフたちはお互いを狩り始める。俺は最後に残った一匹に止めを刺すだけの簡単な仕事だけで済んだ。


 こうして、俺は色々と文句を言いつつも、その日その日を何とか生き凌ぎ、


 そして――


 ついに魔王と対峙する。


「貴様が異世界から召喚された勇者か!」


 そう言って俺を睨みつけるのは、頭部に黒い角を生やした、巨大な――


 巨大な乳をお持ちの――


 美しい赤髪赤眼の魔王だった。


「へっ、俺のハートがぐちゃぐちゃにされちまったぜ」


 俺は左手の人差し指で鼻元をこすりつつ、右手を魔王に向けた。


「何をほざくか蛆虫にも劣る人間風情が」

「種族偏見ぐちゃぐちゃ!」


「……ま、まぁ人間も蛆虫も生きてるんだ! 友達なんだー!ってじっちゃんが言ってたな。しかし! 貴様のようなド平民が王たる我に……」

「階級概念ぐちゃぐちゃ!」


「た、確かに? 極端に硬直した階級縦社会では、これからの世界の大変動に柔軟に対応しきれないこともあるやもしれぬ……」


「だが、わらわは魔族の長にして魔神の巫女たる乙女! お前のような男に負けるわけには行かぬ!」

「俺限定で貞操観念ぐっちゃぐちゃ! 俺限定で!」


「な、なんじゃ、お主を見ていると、わらわの胸のここが苦しゅうなる! こんな憎い敵に心をかき乱されるじゃと……」


 混乱のあまり目がぐるぐるの線になっている魔王に、俺は一気に詰め寄ってその手を取った。そして彼女の目を射抜くような勢いで覗き込み、


「好きだぁ! 俺はお前に惚れた! 好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ! お前は俺が好きだ! スキスキスキスキスキスキ大好きだぁ!」


 を20セット繰り返した。


 次のクールに入る頃には、魔王だけでなく俺自身も誰が誰を好きなのか主語がわからなくなったまま叫び続けていた。


 そして60セット目に入ったときのこと


「わらわは……わらわはお前がシュキー!」


 ついに魔王が俺に大好きだいしゅきホールド(出典:エロ同人誌)を決めてくるまでに至ったのだ。


 こうして――


 ついに魔王を倒した俺は、新たな魔王としてこの異世界に君臨したのであった。


 この異世界に来た目的と、現在の状況に微妙にズレがあるような気がするが、もう記憶がぐちゃぐちゃで覚えていないから問題ない。


 大団円である。


 黒髪の少女が文句を言っている夢を見たが、知らない人なので問題ない。


 大団円である。


 今日も今日とて31人目の子どもを仕込むためにハッスルする俺である。


 大団円である。

 

 

~ おしまい ~

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うっかり女神の転生ミスで、何でもぐちゃぐちゃにできるスキルを持たされましたが? 帝国妖異対策局 @teikokuyouitaisakukyoku

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