第8話 破綻
それは突然やって来た。
「聖ちゃん?今電話大丈夫?」
鎌田さんはいつも、こちらの都合を優先に考えてくれている。
「はい。大丈夫です」
「今どこにいるかな」
「アパートに居ますよ」
「良かった!実は近くまで用事があって…。それで、良かったら今アパートの前に居るんだけど、どうかな?」
「え?アパートの前に居るんですか?」
「うん。どうしても来てみたくて…。散らかっててもいいから、入りたいんだけどダメかな」
(ダメかなも何も来ちゃってるんでしょ?どうしよう、どうしよう。落ち着け。そうだ!風邪ひいてることにしよう)
「ゴホン、ゴホン。ごめんなさい今風邪ひいてて…。移すと悪いから…」
「大丈夫?だったら尚更だよ。ちゃんと食べてる?ケーキ買って来たんだ」
(な、なに?ケーキだと?始めから来る気満々じゃん!ケーキは食べたいし…)
「な、中にはゲホゲホッ!ちょっと無理だけど、玄関先なら…」
「もう玄関の前に居るんだ。開けてくれる?」
「えー!」
私は仕方なく玄関周りのゴミや靴を中にほおり投げ、見える範囲内はキレイにした。
急いで手ぐしで髪を整え、ドアチェーンはかけたまま、少しだけ開けた。
「す、すみません。ゲホゲホッ。わざわざありがとうございます。な、中はちょっと…」
「僕なら気にしないよ。お粥でも作ってあげるよ。後、これ。お土産のケーキ」
その時だった!
Gがガサガサと音を立て、中から玄関に飛び出し鎌田さんの足元を通り過ぎていった。
「…」
「あ、あの…。今のってゴ、ゴキブリだよね?」
「え?な、何かいました?気づかなかったな。あはは」
「ちょっとごめんね」
鎌田さんは背伸びをして、ドアの隙間から中を強引に見た。次の瞬間、鎌田さんが持っていたケーキの箱は、コンクリートに落ち、鎌田さんは顔色を変えて、
「ご、ごめん。急過ぎたね。ま、また、改めて…」
そう言い残し、立ち去って行った。
私は鎌田さんの後ろ姿を、ただ黙って、見送った。
ドアのチェーンを外し、開けて、ケーキの箱を拾った。
中を開けてみると、イチゴのショートケーキが形を変えて入っていた。
「鎌田さん、急にダメだって…」
ケーキを持って中に入ると、ぐちゃぐちゃな我が家を見て、涙が出てきた。
奥に進み唯一キレイなテーブルの上にケーキを置いた。その時
ガタガタガタガタ…。
「な、なに?地震だ!」
ガタン!ガタン!ガタン!ガタン!
揺れは激しくなり、天井近くまで上げていたゴミ袋が私に降ってきた。
「私、このままゴミに埋れて死んじゃうの?」
10秒くらい続いただろうか。やっと、揺れはおさまった。
私は涙が止まらなかった。
すぐに鎌田さんに電話をかけてみたが、電話は通じなかった…。
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