深夜の本屋 ~スピンオフがぐちゃぐちゃ~

タカナシ

第1話 みんな主人公

 深夜になるとこの書店はマンガたちが具現化する不思議な大型書店だ。


 あっ、ご挨拶が遅れました。私は編集者をエッセイの具現化、名前を著者名から取って、江津星えつ ひかりと言います。 

 元の作者に倣って、この不思議な書店をエッセイにしていきたいと思い、今日も店内を観察しています。


 ん? 今日は、なんだかいつもより騒がしいな。


               ※


「俺が真の主人公だっー!!」


 タンクトップ姿の青年が声を上げる。声の感じからツッコミ役ではないかと思われるような苦労性な雰囲気が見える。


「いや、オレじゃっ!!」


 ピンク髪のツンツン頭。こちらの方が主人公らしく見える。


「いいえ、ワタシよっ!!」


 ツインテールのロリっ子。ものによっては主人公だろう。


「えー? 僕だと思うんだけどぉ」


 似合わない革ジャンを着込む少年。何かありそうな雰囲気は主人公でもおかしくない。


 4人のマンガが言い争いをしている。

 これだけならば良くある光景だが、いつもと違うのは4人の顔が似ている。まるで兄弟のようであったことだ。


 よくよく彼らの話を聞いてみると、彼らは某少年マンガ作品のスピンオフ。各々の主人公らしい。

 しかも、作者も同じため、似た顔つきになっている。


「俺らは作者も同じだ。故に書店によってその陳列のされかたは規則性なく、ぐちゃぐちゃ。あるときは俺がトップになっている場所もあれば、お前らの誰かがトップに並ぶこともある。そんなぐちゃぐちゃな現状は今日までだ! 本の並びは書店員さんに任せるしかないが、心の並びまでぐちゃぐちゃなのは許せん! 決着をつけてやるっ!! 俺が真の主人公であるとっ!!」


 確かにそれは興味深い。同じ作者のスピンオフ。書棚の配置も困る事だろう。編集者エッセイの私としても気になるところ。


 どうやって決着をつけるのか期待して見守っていると、


「その勝負。おれたちも見届けさせてもらおうっ!」


 複数の声が聞こえると、そこには――


「あんたらは、作者が違うスピンオフたち!!」


「そういうことなら私たちも」


「お、お主らは、妖怪VS神のバトルマンガ!! 妖怪側の誰が主人公か一切分からないという……」


「ぼくたちも興味があるな」


「あなたたちは、主人公が明言されていながらも、脇役の方が主人公っぽくて、ほとんどに人に誤認されている運び屋のアングラマンガさん!?」


「この戦い、我らが見逃す訳にはいかんなぁ」


「えっー!? あなたたちは、あの108人全員が主人公と言われる武侠マンガ様っ!!」



 えっと、この戦いの結末がどうなったのか、それは私の目の前に総勢200人近くのマンガの具現化が現れて、ぐっちゃぐちゃに入り乱れて見えませんでした。

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深夜の本屋 ~スピンオフがぐちゃぐちゃ~ タカナシ @takanashi30

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