最強が故に追放されたS級冒険者 〜スローライフを楽しもうとした矢先に王女に拾われて最強の護衛に〜
オニイトマキエイ
1章 オーロラの森編
第1話 強すぎて追放されました。
「どうしたんだよ、突然話したいことがあるなんて」
呼び出された青年ヴァンは、よく状況が飲み込めていなかった。
あらかじめ指定された卓にはヴァンを呼び出した張本人であるゲイドを始め、他のパーティーメンバーの2人も既に揃っていた。
王都アルカディアを代表する最強冒険者パーティー『トリオンフ』。メンバー全員が最高位であるS級冒険者の資格を有していることで、王国全土でもトップクラスのパーティーだと名高い。
彼らが集まったのは、王都でも評判の良い高級レストラン。アルカディアの英雄達の集結に、周囲はざわつき始めた。
6人掛けの木製のテーブル。片側に既に3人が座っており、ヴァンは1人で対面に座るしかなかった。
彼らの険しい表情から、穏やかな報せでないのは明らか。いったい何事かと、ヴァンは静かに固唾を飲む。
すると、3人を代表して真ん中に座っているゲイドが話を切り出した。
「ヴァン、お前には今日限りでパーティーを抜けてもらう」
「……は!?」
ヴァンにとっては思いもよらぬ展開だった。追放される心当たりがあるならまだしも、むしろ最大限貢献し尽くしてきたつもりだ。
呆然と口を開けて固まるヴァンに、ゲイドは無慈悲に続ける。
「これは俺だけの意見じゃない。3人の総意だ」
「嘘だろ……2人とも?」
ヴァンが藍色の瞳を大きく開いて女性陣に視線を遣ると、彼女たちは申し訳なさそうに首を縦に振った。残酷な現実を突きつけられた彼は、みるみる頭が真っ白になっていく。
「理由は!理由を教えてくれ!」
「……理由か。それはヴァン、お前が強すぎるから
だ」
「え?」
ヴァンは困惑した。予想の斜め上の理由に思わず間抜けな声が漏れる。
対して、自覚がない様子のヴァンに苛立ちを覚えるゲイド。彼の語気は段々と強くなっていく。
「俺達は全員冒険者の中でも最高ランクのSランクだ。ただ、お前の実力はその中でも飛び抜けている。お前はいつも率先して魔物を倒してくれるな。それも、一瞬でだ」
「お、俺は皆の為を思って……!」
「それがいけないと言ってるんだ!」
ゲイドは声を荒げて卓を殴りつけた。
静かに会食をする客達が一斉に振り向いて注目する。すっかりボルテージの上がったゲイドを、両脇の女性陣がまあまあと背中を摩って宥めた。
深呼吸して一度落ち着いたら、彼は再びヴァンの追放に至った経緯を話し始める。
「俺達3人もな、各地で猛者として名を馳せたS級冒険者だ。S級のプライドや誇りってもんがあんだよ。ヴァン、お前といると俺の誇りやプライドがボロボロと崩れていくのが分かるんだ」
ゲイド達がここまで追い詰められ葛藤していたことに、ヴァンは今日まで気づくことすらなかった。
パーティーを結成してから約3年。
初めて耳にする悩みだった。
それでもなお、芽生えた友情や旅の思い出は本物だったとヴァンは信じて疑わない。
ヴァンにとっては、3人とも心を許していたかけがえのない仲間であることに間違いない。
故に、どうしても離れたくなかった。存続できる案をどうにか模索する。
「だ、だったら!俺がサポート役に徹する!俺は回復魔法やバフだってある程度は……」
「情けをかけるのやめてよ、ヴァン。アタシたちがどんどん惨めになるじゃないのよ」
ヴァンの提案をピシャリと遮ったのは、ゲイドの左隣に座るシルフィ。芯が強く物怖じしない彼女はよくゲイドと揉め事を起こしていたが、今日は完全に彼の肩を持っていた。
「アルカディアの英雄などと聞こえはいいがな、俺たちが裏でなんと呼ばれているか知っているか?」
「いや……知らない」
「なら教えてやる。『トリオンフはヴァンだけのパーティー』『ヴァンに寄生しているだけ』『S級の実力があるかも怪しい』……これが、民意だ」
ゲイドは話しながら、込み上げる怒りを歯を食いしばって抑えているのが分かる。
彼の高貴なプライドが、世論の心無い意見を許すはずがなかった。
ただ、これにはヴァンも怒った。
自分のパーティーメンバーが世間から影で貶されていたことも、彼は知らなかった。
「そんなデタラメ信用するなよ!お前達のことは俺がよく知ってる!ゲイド、シルフィ、ミーア、もう1回俺たち4人でやり直そう? 俺も気をつける、今度は……」
「ダメだ」
縋るような目で懇願するも、ゲイドには冷たく一蹴されてしまった。彼の未来の構想には、ヴァンの姿は既に入っていないのだ。
「トリオンフでの3年間は、黒歴史でしかない。俺たちはトリオンフの名を捨て、3人で新たに生まれ変わるんだ。悪いが、ヴァン。ここでお別れだ」
「この際だから言わしてもらうけど、この3年間はクソつまらなかったわ。だってアンタが一瞬で殲滅しちゃうから。アンタみたいな奴は、Fランクの貧弱な女冒険者を介護してあげるのがお似合いなんじゃない?」
「……ヴァンくん、ごめんなさい。またどこかで会えたら嬉しいな」
ゲイド、シルフィ、ミーアの3人はそれぞれ捨て台詞を吐いて席を立つ。卓に1人取り残されたヴァンは茫然自失で、なにも考えられなくなっていた。
ブラックのコーヒーを1杯だけ口に入れたら、ヴァンも立ち上がってレストランを出た。とても食事をしようという気分ではない。
(あぁ、明日からなにをしようか)
本来であれば、明日からはボルカノ山へワイバーンの討伐に向かう長期遠征任務が始まるハズだった。
S級冒険者のみが受注できる『危険度★★★★★』の任務で、難易度は最高ランク。
ヴァンは1人で挑むことも考えたが、すぐに考えを改めた。
(なんだか、全部どうでもよくなっちゃったな。仲間がいるならともかく、俺1人ならそんな精力的に任務に臨む必要もないし。いっそのこと、無人島にでも行ってのんびりスローライフでもするか……)
俯きながら今後の身の振り方を考えるヴァン。
すっかり視線を落としてフラフラと歩いていたところだ。彼は、前方から慌てて走ってきた女性と正面から激しく衝突してしまった。
お互いに派手に転倒した後、ヴァンはぶつけた肩を押さえて立ち上がる。手を差し伸べると、彼女はキッと睨んで悪態をついた。
「痛ッたいわね!どこ見て歩いてんのよウスノロ!」
「わ、悪い!つい考え事をしていて。それよりケガは……ん?」
ヴァンが女性の顔を改めて確認した時、彼は自分の目を疑った。
庶民がただ外を出歩くには不自然なほど着飾った服装。ブロンドの長髪が特徴的で、キリッとした目鼻立ちをした端正な顔立ち。
彼女は他でもない、王都アルカディアを擁する王国ライトニングの現王女である『ユナ・ブリタニア』本人に違いなかった。
そしてユナ自身も、ヴァンの顔を見て彼が何者であるかを察したようだ。
「アンタ、『トリオンフ』のヴァンよね?」
「そうだけど、貴女の方こそ……」
「ちょうど良かった、アンタみたいな強い冒険者を探していたのよ!」
ヴァンの言葉はまるで無視して、食い気味に迫るユナ。彼女は唐突にヴァンを指差すと、突拍子もないことを言い出した。
「アタシを捕まえにくる追手の奴らを退治してほしいの!アンタならできるハズよ!」
「……は?ちょっと仰ってる意味が」
「詳しい話は後よ!ほら、来た!アイツらをやっつけて!」
ユナの言う通り全身を黒いスーツに包んだ異様な集団が、凄まじい剣幕で接近してくるのが見える。
なにがなんだか分からない様子のヴァン。
失意のドン底に沈んでいた彼は、もうこの際なるようになれと投げやりな態度で臨戦態勢に入った。
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