ぐちゃぐちゃ
Y.T
第1話 衝動。
開かれた玄関の外で、自動車のアイドリング音が鳴っている。この部屋は小さなアパートの一階にあるため、駐車場の音が近い。
「じゃあ私たち行ってくるから。良い? 絶対に余計な事はしないでね? ゼッタイ!」
「はいはい、大丈夫だって」
太一と咲良は恋人同士だ。
慶は咲良の息子。今年で小学2年生になる。咲良と慶の名前に使われている漢字に接点がない事を見るに、父親の字を取ったものだろう、そう太一は解釈している。
太一も咲良も今日は休みだ。しかし咲良には息子の送り迎えがある。
——あんな事言うなら慶の送り迎えぐらい俺がやるのに。でもまぁ、しょうがないな。
太一は咲良達と同棲していない。
今しがたここに着いたばかりだ。まだ婚約すらもしていない太一に息子の送り迎えをさせるのは、咲良にとって都合が悪いのだろう。もしかしたら負い目とか引き目とか、そういうものもあるかも知れない。流石に信用されてない事はないと太一は思うが、そんなものは、咲良にしかわからない。
——さーて待ってる間、何してましょうかね?
太一は想像する。咲良が帰って来たその後を。
——この後デートに行くにしても、部屋でのんびり過ごすとしても、咲良はまず、家事に追われるはずだ。部屋は片付いてるし、簡単な化粧もさっきしてたけど、やっぱりやる事はあるはず、だよなぁ。その間俺は放っておかれる。それは俺が困る。
太一はそわそわし始めた。
——ゴミ、はさっき出したよな? あ、そうだ!
太一は洗面所兼脱衣所へと向かう。
奥には浴室のドアがあり、その近くに洗面台がある。こちら側には洗濯機があって、洗濯機と洗面台の間には、二つの洗濯かごが積まれていた。
——くっくっくっくっ、よくもまぁ、こんなに溜め込んだもんだな? 後からギャーギャー言うくらいなら溜めなければ良いハナシ。つまり俺は、悪くない。
実際は、洗濯洗剤や水道代の節約の為だとかそういう理由があり、それは太一もわかっている。
だが太一のこの衝動を止める者は今、誰もいない。
太一はかごに入った衣類を適当に、洗濯機の中へ、放り込んだ。
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