第9話
「ソラ?…空?飛ぶのか?この部屋が?」
「部屋って言うか…まあ、うん。飛ぶんだよ…ホントはね。今は何故か飛べないが」
何故かね?
ホント、なんで?
「部屋や建物が空を飛ぶ訳ないだろう?」
「あ~。あ、そうだ。エル。確か外観の全体図が出せたよな?」
「はい。
艦長が改修しているので多少は異なりますが、購入された時の映像ファイルがあります。それを出しますか?」
「頼む」
「サー」
エルメリアに頼めば俺がいちいち操作せずとも思考操作を駆使してほぼなんでも出来る。この船の中でエルメリアが直接赴いてまで操作しなければならないものは少ない。重要なものは直接向かう必要があるし、俺の許可が必要になってくるけれど、この程度であれば、あら不思議。流石の手際です。
ものの数秒で医務室にある壁掛け式のデカディスプレイに【ラララ宇宙号】が完成する前の状態の外観が映し出された。
正式名称は―――
「こちらが【輸送船ヘルメシス】の全体図となります」
輸送を主に高次元の戦闘も行える最高級の宇宙船であるヘルメシス。
宇宙を駆ける事は勿論、大気圏内でも相当な速度での移動が可能となっている船。輸送が主としているので図体からは想像できないくらいに倉庫は大容量であり、多分どんなに物を詰め込んだとしても溢れる事はない。何せ、全て『データ』として保存してしまうのだから、その容量はもう無限とも言って良いくらいに大きい。誇らしい我が愛船のスペック。何度思い出しても最高じゃ!
「この絵を今見せた、という事は…もしや今私たちはこの中に居るのか!?」
「その通りです」
「奇怪な建物だな…」
ロコンが推測した文明レベルは中世。
驚くのは当然だし、奇妙と思うのも同じく当然と言えるかな。下手をすればこれから先科学の力を行使していけば『神様』と同類に見られる可能性もある。それと同じ様に『悪魔』とかも思われる可能性があるのがちょっと怖い。別に強靭なメンタルを持ち合わせている訳じゃない俺としては、世界から「悪魔だ!」「敵だ!」と指を差され、剣を向けられて平然とはしていらない。
どうかそうはならないでほしいものです。
「これは、どれほどの大きさなのだ?」
「全長101m。全幅25m。全高30m。となっています」
「・・・?」
「エルメリア。
恐らく理解できていない。大きさの単位が異なるか、若しくは単位が存在していないのだろう」
「単位・・・?」
どうやらロコンの予想が当たっている様だ。
「この医務室と我々が呼ぶ部屋が20以上並ぶ程度の長さが、横には5程度、高さも5程度は並ぶでしょう」
「そんなにか!?」
驚いてくれるのは嬉しい限りだが、宇宙船としては小さい方です。もっとデカい物はデカい。マジで。引くぐらいデカい。星くらい。
そして、べらぼうに、高級品です。ま、この【ラララ宇宙号】も目が飛び出るほどの金額ですけどね!
あ~、ってかそろそろ落ち着いて欲しい。
聞きたい事が山とあるし、多分そっちも色々と聞きたい事説明したい事もあるだろう。だから、今は関係のない俺たちの技術とか、【ラララ宇宙号】の事とか後回しにして欲しいんだけど…。
無理みたいだな。
意外…と言っては失礼かもしれんが、知識欲旺盛の様だ。
まるでウチのレコンを見ているかの様。まだこんな姿は見ていないが、多分彼女の好奇心が刺激された時はこうなるだろうな。
……仕方ない。
先に弟くんの容体の説明をお互いから聞きたいから医療ポットに入れますかな。
「エル、レコン。弟を医療ポットに運びたから手伝ってくれ」
「サー」「了解っ」
「ですが、艦長はそのままで、雑事は私たちにお任せください」
「そうそう」
「…え?あ、はい」
結局暇になるのかよ。
まだかなぁ~?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「す、すまない…」
「いやまあ、別に…?」
問題と言う問題は別にないよ?
差し迫った事がある訳でもないから時間を消費したところで困る事はないし、困る人もいない。強いて言うなら俺が暇だっただけだ。エルメリアとレコンも弟くんを運んだあとは医療ポットを軽く操作しただけで暇だっただろうけどね。
二人とも特に問題とはしていない、と思う。なんか二人でこそこそと話し込んでたし。
……俺も仲間に入れて欲しかった。何を話してたんだろうか?
女性同士の話と言うのは男の俺が混ざるのもなんだかな?と思ってそっとしてたけど。
「その、初めて聞く事が多くて、な?」
「興味を引けた様で何より」
「いやいや興味が湧きすぎて迷惑をかけてしまった。申し訳ない」
ちょっ!?
前屈みやめて!?いやお辞儀なのはわかるけども!ただでさえ、ちょっと目のやり場に困る格好をしてるのにもっと目のやり場に困るから!!
「―――さて、私の所為で時間を取らせてしまった訳だが、話をさせて貰えないだろうか」
「ん゛ん゛。あ~じゃあ、見て欲しい物がある」
取り合えず、医療ポットに備え付けのディスプレイでは画面が小さく精々が二人並んで見れる程度。それ以上の人数で見るならばやっぱ大きめの画面で見たいところ。ってな訳でエルメリアに目配せすれば人間性を多少なりとも理解し始めており、そして聡い彼女は【ラララ宇宙号】の元となった【輸送船ヘルメシス】の画像を消し、メルトレイさんの弟であるレギンメルド君の今の検査結果を簡易版で表示してくれる。
うんうん。いいね。
取り合えず最初に表示してくれたのが詳細結果じゃなくて簡易結果ってのも、個人的には高評価ポイントである。
「―――すまない。文字は読めないんだ。これは、何だろうか?」
「…あ」
普通に会話が出来てしまってたから忘れてました。
そうじゃん。俺らって通常であれば会話できない意思疎通が出来ない関係でした。
「僭越ながら、わたくしが説明をしてもよろしいでしょうか?」
「お、あ~、じゃ頼んだ」
「畏まりました」
ロコンが引き続きメルトレイさんのお相手を積極的に買って出た。これも人間らしい、と言えなくもないかな?多分。
アンドロイドであったら俺から命令と言う形をしなければ動かないはずだからね。
「こちらの右側に描かれている図。これは弟
「中身?透かして?」
「ええ。普段我々の体は皮膚がある為その内部までは見る事が出来ない。それに血液や筋肉、更に脂肪と言った様々な成分が体を構成しているため普通であれば見る事は叶わない。しかし、特殊な装置、レギメルド殿が今横たわって居る寝台型のカプセルはこれを可能にする」
「なる、ほど?」
サラリと自分も人間である事を『我々』と表現して肯定している事になんかちょっと感動…。いい加減この感動してしまう俺の感情もどうにかしないとな…。そして、それと引き換えに俺はもう人間じゃなくなってしまったと落ち込む思考も同時にどうにかしたいね。
「左側には我々が主に使用している文字でレギメルド殿の体について今現在の状態を簡潔に記載してある。
上から『生命維持機能低下:中』『衰弱:中』と書かれている」
「『中』?どちらも『中』なのか?」
「そうだ。ここに運び込んだ時点ではどちらも『大』であった。それに加えて他にも命に関わる症状がみられたが、こちらの我らがマスターの指示により治療、ここまで回復する事に成功している」
「なるほど」
一通りの説明を受けたメルトレイさんがこちらへと視線を向け、続いて体も綺麗にこちらへと向ける。不思議に見続けているときつく結んだ口と、真顔?の為か吊り上がった目が少しだけ柔らかく変化した。
「改めて、感謝を・・・。
治療の方法に疑問がある為、説明を求めたい。が、それはそれとして、治療の効果は素人眼に見ても一目瞭然。どんな方法でも回復しないはずの弟の病にまさか有効な治療法があったとは驚きだ。
私から、もう一度。最大限の感謝を」
すんごい頭下げるね!?背中が見えるくらいに下げてくれたから今度は目のやり場には困らない!ちょっと残念な気持ちにあるのは男の性?
「あ~いや、俺はただ診断の結果から出た治療方法に許可を与えただけだから」
「その許可が大事な事なんじゃないか」
いや、う~ん……そうと言えばそうだけども……。そう大げさにされる程じゃないんじゃないかな~っと思うんです。思っちゃうんですよ。そうじゃない?だってただ「いいよ」って言葉を発しただけだしさ。
「素直に礼を受け取ってくれ」
「いや、うん、まあ、はい」
「良かった。
それじゃあ、早速で悪いのだが治療方法の説明を頼めるか?」
了解。
ではサクッと。
「ロコン頼む」
「畏まりました」
いやはや、なんか疲れるね。
固い喋り方なのも原因の一つだろうけど、それはエルメリアとロコンも固い喋り方だから慣れている。はず。多分。今までエルメリアやロコンには苦手意識を少しも感じた事は無い。まあ、でもあの二人は旧知の仲と言ってもいいだろうから、ノーカンか?
だけど、明確に苦手と言うか疲れる原因となっているのはあの抜身の刀の様な鋭い雰囲気だ。それが端々から感じてしまう。
固い喋り方もそうだし、声音もそう。その他にも背筋だったり目力だったりからバシバシ感じてしまう。
なので、ごめんちゃい!
なるべく接触は少なめでお願いしたい!
「マスター。
【回復薬】の現物をお見せしても構いませんか?」
「いいよ~」
「感謝します。
メルトレイ嬢。こちらがレギメルド殿の治療に使用された薬になる」
医療ポットの横に設置された薬品庫。
見た目はただの小型のディスプレイを操作。倉庫から医薬品のみ取り出し可能な事を利用して、【回復薬】を取り出したロコンはメルトレイさんにそのまま渡し、説明を続けた。
一連の流れ、動き?は洗練された動きで、どこをどうしたらそんな優雅に気品のある動きになるのか不思議でならん。俺でも出来るんだろうか?
「なるほど。これが…確かにこれに治療効果があるのなら弟にも効果的だろうな。マナを全く感じない…。いや、正直信じ難い。
私の知る、と言うよりも世間では治療の力はマナが重要で、マナが無ければ治療効果は見込めないのが一般的な認識だからな」
ん?
「マナが無くて治療効果があれば弟くんには効果的?」
なんだそれ?
「そもそもマナって何?」
それがまさか魔法的な何かなのかな!?
そうだよね!?
絶対そうだ!俺の勘が「そうだ」と叫んでるぞ!!
「…?マナを知らないのか?子供でも知ってる事だぞ?」
仕方ないじゃないか!
だってこの世界では赤子も同然の状態なんだぞ?生後1か月程度と同義だぞ?知らなくて当たり前じゃないかい?そんなに驚かれると傷ついちゃうじゃないか。やめて?
「我々には世間の常識は欠如していてな。悪いが説明を頼みたい」
「そ、そうなのか…。まあ、了解した」
よろしくお願いします。
「マナとは―――」
マナとは。
空気中にも、生き物にも、生き物じゃなくても、何なら空気中にも存在する。ありとあらゆる者と物、空間にも宿るモノ。物質が存在するためにも必要であると考えられており、生き物がただ生きて行くためだけにも必要なモノと考えられいる。
聞いた限りではこの世界では物質を構成するのに必要不可欠な原子の様な存在に思えるが……。分からん。医療ポットでは『正体不明のエネルギー』と出ていた。
調べた限りでは『エネルギー』なのである。
しかし、マナはエネルギーでありながら、すべての物を構成する原子でもある…?
上手く言葉にまとめられないけど、なんか違和感と言うか―――ありえなくないか?
「そして、【活術】と言う世界の理を曲げ、奇跡を起こす術をマナを使用して起こす事が出来る」
「そこんとこ詳しく!!」
来た来た来たキターーーー!!!
魔法!!
「あ、ああ…。
え~【活術】とは人がマナを使い、あらゆる場面で活躍する技術だ。
生活の上では勿論、戦闘など身を守るためにも使われる。起こせる奇跡は様々で、小さい奇跡、火を起こす、水を生む、など生活の上で助けになる【活術】もあれば、大きい奇跡、灼熱の炎をぶつけたり、濁流ですべてを流したり、主に戦闘方面で助けとなる【活術】もある。
少し毛色が違うものとして、日常でも戦闘でも助けとなるのが『身体強化』だ。
これはその名の通り自身の身体を強化する【活術】で、普通は出来ない様な力を発揮したり、不可能な動きを可能とするものだ・・・これくらいでどうだろうか?」
「方法!方法は!?」
「【活術】の会得方法の事だろうか?」
「そう!!」
そこ!そこが一番と言って良いくらい重要である!
SF系のゲームにドはまりしていた俺である。が、一般男子―――否!老若男女問わず、一般的に魔法とは夢である!全人類の大願である!!
その会得方法が肝心寛容。
これを知らずして何を知ると言うのか?
さあ!俺に!英知を!!
「……非常に言い辛いのだが、貴方から、と言うよりも貴方達の全てからマナを感じない。なので、恐らくは【活術】は使えない、かと……」
「なん、だと…」
いや確かに医療ポットで検査した時にメルトレイさんとレギメルドくん両方から『正体不明のエネルギー』。つまりマナが感知されていた。しかし、俺たち4人の誰からも『正体不明のエネルギー』。つまりマナが感知されていない。
つまり、そういう事?
「艦長。
恐らくはこの世界の人間にだけ備えられている何かしらの器官。確率が最も高いのは『マナを貯蔵する器官』若しくは『マナを製造する器官』が私たちには存在しないと予測されます」
「―――信じたくない!」
何か!?
無いか!?
他に方法は!?
「一応【マナマシン】と言うマナが少ない人様に作られた道具があって、だな。それならば使えると思うぞ?」
「そうじゃにゃい!」
くっそおぅ!!
涙が出てきやがる!
俺が求めているのは魔法を使う事であって、魔法が使える道具を使う事じゃない!
確かにそれを使えば疑似的に魔法を使って感動を味わう事が出来るだろう。
しかし、それはあくまでも疑似的なもの。俺が求めているのは本物である!
「……仕方ない。最終手段だ!」
「マスター。
何をするのかは予想できませんが、お待ちください」
「なん、だと……」
何故止めるロコン!?
「まずはレギメルド殿の件が優先すべきかと愚考します」
「あ、はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます