第8話

 いやはや、今更ながら気が付いてしまった。


 色んな病気やらなんやらを気にして遭難者?との直接の接触を禁止にした訳だが。それはもう非常に遅い事に気が付いた。


 何せ俺らは普通にこの地ので活動していた。それも何の対策もしていない裸とも言える状態で行動してたし、何なら動植物とも接触して、口にも入れて体内に取り込んでいた。

 よって……遅い。遅過ぎたのだ。今更ながらいくら事前に検査しているにしてもこの行動が危険であった事に思い至った。

 人が患う病気は、基本的には同じ人と言う種からしか感染しない。しかし、病気の種類によってはそれは適用されなかったりするし、動物の種類によっては人に感染する事が可能な事もある。


 それらを懸念事項とすることが出来ずに今まで行動して来た俺。そしてエルメリアたちは、今更現地の人との接触を避けるのは遅い。いや、一応間違った行動では無かったとは思う。今までの生活でも必要であったからそうして来た訳だ。それに何も検査しなかった訳ではない。安全かどうかを調べる事はした。ただ調べたと言っても機器が優秀なだけで、実践してきた俺たちは素人同然。危険であったのは変わりない。

 それに現地の人たちとの接触を避けたのも間違いではないだろう。もしかしたらあの現地人のどちらか、あるいは両名が珍しい病に侵されていて、それが俺たちにうつる可能性もあった。だから接触するのはどうだろうかと思ったのは間違いではなかった。


 しかし、何度も思うけれど、遅かった。何よりも一番応えたのはロコンから発せられた「もう遅くはありませんか?」との質問。マジクリティカル。


 そんなこんなな俺の感情はさておき。一応、念の為、万が一を考えて接触を控えて様子見をする事翌日朝。二人とも目覚める事は当たり前だけど無く、未だに寝続けている様だが、出来れば早く目覚めて欲しい。が、目覚めて欲しくない気もしなくもない。面倒事はごめんだし、言葉が通じなくて悪戦苦闘したりも出来ればしたくはないので。


 様子を見るために見たカメラ越しの映像と、朝と夜に一回ずつは医療ポットで検査をすることを決定し、朝にチェックしたところ昨日行った処置は無事に効果を発揮。二人とも改善がみられた。

 残念ながら一人、背負われていた者。恐らくは10歳程度の年齢の男の子は改善はされど完治にまでは至っていない。未だに『衰弱:中』と『生命維持機能低下:中』が残っている。顔色は随分と良くはなったが未だに顔色は悪く、何が原因かそれ以上の回復は起こらなかった。

 もう一人の方。男の子を背負って居たは完全に回復。後は目覚めるのを待つばかりとなっている。


 しかし、昨日の俺、マジGJ。

 女性とは知らなかったし、医療行為の一環であるから、とやかく言われたくはない。けれども、裸にひん剥いてしまったいたのだ。その様、様子を見ていなかった。何度も言う。俺は裸にされたところは見ていない。


 もし見てしまっていたら…気まずかったろうな。


「艦長。

 どうやらお目覚めの様です」


「おぉ…目覚めちゃったか…」


 時刻はもうすぐお昼ご飯の時間。来るべき時が来てしまった感がめっちゃある。


 かなり億劫である。


「それで、どっちが目を覚ましたの?」


「女性の方です」


「ま、やっぱそっちだよね」


 原因は分からないけれど、体に異常がある男の子が先に目が覚めるとはちょっと考え辛かったし、予想通り。やっぱ裸見てなくてよかった~。


「んじゃ、ま、行きますか」


「サー」


 初接触。である。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「『********!!』」


「……なんてぇ?」


 予想通り。言語が理解できません。


「暫くこのままでよろしい様な気も致します。ほんの僅かではありますが言語理解が進みますので」


「あ~まぁ、多分今罵倒か困惑の言葉を言ってると思うから…まぁ多少は進むとは思うけれど、あまり覚えたくはない言葉じゃないか?―――ん~ちょっと考えさせて。その間はエル、レコン、ロコンよろしくな」


 言語理解は確かに進むだろう。けど、多分汚い言葉だ。


 ん~どうするかね…。

 こっちから通信をかけて声を掛ける事は出来るけど、通じない言葉で声を掛けられても向こうも困るだろう。でもだからと言ってこのまま放置するのも…。


「ヨシ。一回通信で呼び掛けてみよう。今話してる言葉は俺たちには通じないけど、もしかしたら他の言葉も知ってて通じる…もしかしたら俺たちの言葉も知ってるかも?」


 無いな。我ながらそれは無いわ。


「艦長。その可能性は限り無く低いと思われます」


「ウチもそれは無いと思うわ」


「失礼ながらわたくしも同感です」


「わかってるよ」


 そんなみんなで突っ込まなくてもよくね?


「あ~あ~、聞こえるか?」


「『**!?*********!!』」


「悪いが君の言葉が分からない。君はこちらの言葉はわかるか?」


「***!****!******!」


 ダメだこりゃ。

 取り合えずこちらからの音声OFF。


「やっぱダメだね。どうしたら良いかね~」


「…あの、ウチが会って来ちゃダメ、かな?」


 ん~。多分今かなり困惑?警戒?してるだろうからなぁ……。ちょっと先の行動が読めないんだよ。元々文化レベルも分からない状況だから余計に行動が読めない。何をされるか…。


「取り合えずレコンが一人で行くのは却下だ」


「うぅ…。はい…」


 悪いね。レコン的には自分が一番最初に「人命救助」を言い出した手前、何かをしたいんだろうけど。最悪を想定すると暴れられる。

 そんでそれを鎮圧する事が出来ないくらいにこちらの戦力が通じない場合。下手をすれば全滅。あるいは誰かが、一番初めにレコンが死んでしまう可能性がある。


 おいそれと簡単に「行け」とは言えない。

 だけど他の手段は……。


「ふぃ~仕方ない。全員で行くか」


「よろしいのですか?」


「誰か一人とか二人でとかで行くよりは安全だろ?相手は取り合えず現状では一人だし。こっちは4人だからね。

 何かの病気に感染させられる可能性はあるけど、それは昨日ロコンが言ってた通り気にするのも今更な気がするし。そもそも検査結果を見ればその可能性は限り無く低いからな」


 色々と御託とか言い訳はあるけど、正直な気持ちは一つだ。


 直接接触する以外に方法が思いつかないだけ。

 俺は元々一般人であるから問題解決の道筋も一般人レベルのものしか出てこない。エルメリアたちに意見を聞けば返ってくるだろうけど、元アンドロイドであるエルメリアたちは色々ズレた思考をしている。例えば、こちらの身を守る為、安全を考えてあちらさんを。なんて選択も簡単に提案してくるだろう。


 流石にそれは俺的に取りたくない方法であるし、他に提示される意見もちょっとズレがある気がする。参考には出来るだろうけど、直接接触以上の方法が思いつかないだろうと思うし、何より、今は時間が無い。


 今にも暴れ出しそうだし。


「行こう」


 幸いなのは多少やつれていた感じの見た目が、健康的な感じになっていること、かな。言葉が通じないのはネックだが、どうかそれを感じて俺たちが敵対している訳じゃない事くらい察してくれるとありがたいんだけどね~。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「っ!?********!?」


「あ~……俺はハルキ。んでこっちがエルメリア、レコンとロコンだ」


 一応ロックを掛けておいた医務室の自動扉を開けて入室。その途端に意味の通じない言葉を投げかけられた。この場合ってどうしたらいいんでしょうかね?考えてはみたけど最善がわからないので、通じないとわかって居ながらも自己紹介をしてみた。


 悪手でない事を祈るばかりです。


「……?*****?」


「あ~悪いけど言葉が通じないんだよね?悪意とかは無いから」


 せめて悪意が無い事、暴力を振るう事はない事なんかを理解して欲しい。言葉ではなく態度で示すしかないので、両手を上げて笑顔。エルメリアたちにも両手は上げてもらう。いや、そんな全力で上げなくていいよ?万歳じゃないんだから。


「*****。【*********】。」


「パチン」


「――――――どうだ?これで大丈夫だと思うが?」


「んん!?!?」


 はぁ!?えぇ!?


「反応を見る限り、どうやら言葉は通じる様になっている様だな」


 っどうなってんのぉ!?

 眼を閉じて何か呟いて、指を鳴らしただけですよ!?


 流石に俺以外の3人も驚いてる。…いやエルメリアは非常に分かりづらいけど。レコンは分かりやすい。が、弟のロコンも少しわからないな。


「返事は貰えてはいない、が、理解できているとして話をさせて貰う。

 状況を見るに私とそして弟を助けてくれたのは君たちであろう。そこには感謝する。しかし、状況の説明をしてもらいたい」


 驚く俺を置き去りに話を進めようとするどこか騎士様の様な厳格な話し方をする救助した女性。


 もう、ね?

 目がキツい!


 手ぶらなはずなのにどういう事か?まるで武器を向けられている様に感じる。

 救助した時はパッとしか見てない。性別すら分からない程度に本当に雑にしか目にしていない。そもそも外套についてたフードで顔がほぼ隠れていたから見えなかったそれに服装もすっぽりと隠されたから本当にチラッと垣間見ただけ。でもこんな性格なのかと不思議に思う。こんな厳格な騎士様はイメージしてなかったよ?


「…状況、と言うと?」


「まず気になったのは不自然な回復だ。

 私が倒れてからどの程度日数が経過しているのかは、当たり前だが知らない。普通に考えるならば恐らくは目が覚めるまでには二日。問題なく体を動かせるようになるまで七日程度。体の回復具合を鑑みるとこの程度の期間私は寝たきりだったはず。だが、そうなると私の体が調である事はおかしい。

 たかが数日ではあっても寝たきりであったのなら、私の体は多少の衰えがある筈。しかし、私はそれを感じていない。今すぐにでも私は最高の状態で動く事が出来る。普段から戦いに身を置く私がその辺りを感じない、という事はそれ程の日数は経過していないのであろう。

 しかし、そうするとこの回復の説明がつかなくなる。私が倒れた時の状態は短期間で回復できるものではなかったはず。その回復させた手段が私には思いつかない。

 それに、一番理解出来ないのは私の弟の事だ。弟は不治の病を患い、マナが本来許容できる蓄積を超えて溜まる事で、体に不調をきたすもの。治療方法は無いはず。現に弟の体には変わらずにマナが蓄積したままだ。しかし、体は改善している様に見える。

 どういう事だ?」


 ・・・―――うっわ~。いっぱい喋るぅ~。


「え~まず貴女が倒れていたのは昨日」


「昨日!?」


 うおっ!?


「まさか一日で回復させたのか!?」


「あ~まぁ、そうなる。で、貴女とあちらの弟さんを治療したのは【医療用レーション】と俺たちが呼ぶ薬とそれと合わせて【回復薬】を飲ませた。俺らに出来たのはそれだけだ」


「薬!?そんなっ!?」


 えぇ??何?なんで慌ててるの?


「どうし―――行っちゃった」


 弟と言われた男の子の眠るベッドまで一直線。流石に普通に話す声量では声が届かない。


「あの人間は何を驚いているのでしょうか?」


「それは俺にもわからんよ。ロコン」


 追い掛けて話の続きと何に驚いたのか話を聞きたい。そして何よりも何故急に言葉が通じる様になったのか。これが一番今俺が知りたい事だ。


 言葉が通じなかったのは間違いない。

 最初に話していた彼女の言葉が意味のない『音』をただ並べただけだったとは思えない。分からなくともあれがちゃんとした言語だったのはなんとなくわかる。それにこちらの言葉が通じている風にも見えなかった。

 という事はやっぱりあの指パッチンが何かしらのスイッチを入れたはず。それからその直前に呟いていた言葉ももしかしたら何かしら意味があったかもしれん。


 この不思議現象を説明出来るもの。

 俺の頭では一つしか思いつかない・・・。


 魔法。

 魔法じゃね?

 魔法だろう!?

 魔法だよね!!??

 魔法しかあり得ないよね!!!???


「艦長。何を興奮しているのですか?」


「いやちょっとな?」


「もしかして―――性的な好みでしたか?」


「なんでそうなる!?」


 突然何を言い出すんですかね!?この秘書さんは!?


 いや、まあ、確かに美人さんだとは思う。

 好みか好みじゃないかで言えばそりゃもうバチクソに好みではある。細身且つ目鼻立ちくっきりの金髪碧眼の美女。腰まで届くくらいに長い髪がもう最高に好みです!

 唯一俺の好みじゃない点で言えば―――デカい事くらいだ。どことは言わんが、デカい。しかも、臨時の服という事で簡単に作れて、尚且つ簡単に着せられる薄めのバスローブだけのほぼ風呂上りと同義の格好で非常にけしからん状態で、スタイルが浮き彫りな姿―――好みのスタイルとは言えないけれども!興奮はする!!


 だけど、今はそんな話はしてない。


 いくら好みのクール美人さんであろうとも。

 そんな美人さんが裸同然の布一枚だけであろうとも。

 布の所為でスタイルがバッチリ浮き出ていようとも。



 今は!

 あんな事やそんな事を考えている場合ではないのである。魔法を……知りたい!

 とかは断腸の思いで脇に置いておいて。二人の容体と事情を聞かなければならん!それから色々と情報を教えてもらいたいし。主に魔法について詳しく聞きたい所存!


「どう言う事だ?薬を飲ませた場合はずなのに…。先程確認したままの容体だ。完治はしていない様だが、やはり回復している。――――――あり得ない」


 はい?薬を飲んだら悪化する?

 なんだそれ?


「え~っと」


 名前も聞いてないや。ってかこっちの自己紹介も言葉が通じていない時だったから向こうも理解してないじゃん。


「失礼。どういう事か説明を願えるか?」


 ナイスロコン。

 名前が分からんから追い掛けたは良いものの、なんと声を掛ければいいのか分からんかった。


「…ん?あ、ああ。そう、だな」


 明らかに動揺している様。

 揺れ動く瞳から想像するに本当にあり得ない事態の様だ。まぁ、喜ばしい事ではあるだろうから気まずさは感じないからヨシ。


「私の弟、名をレギメルド・ヴィ・レイセン…と言うのだが、すまない。家名は忘れてくれ。つい癖で口にしてしまったが……私たちはもうその家名を名乗れない立場にある」


 あ、そういう感じ?

 なんかめんどくさい事情がおありな感じですか?


 聞き流しま~す。


「そう言えば自己紹介もまだだったな。

 私はメルトレイ。ただのメルトレイだ。そして先に述べた弟のレギメルドだ。

 そちらの名前を教えてもらえるか?」


 はい喜んで~!


「俺はハルキ。こっちがエルメリアでレコンにロコンだ。よろしく」


「ああ。よろしくお願いする」


 俺は軽く顎を引くようなお辞儀を。

 エルメリアは両の手を重ねお腹において綺麗なお辞儀を見せ、レコンは何故か偉そうに腕組で頷き。そんな姉の姿を一瞬ため息を漏らしたが、すぐに左胸に右手を添える様に置き、これまた綺麗なお辞儀を見せた。


 まぁ、そんな流れる様に自然に礼をすれば当然だよね。疑問を持つのは。


「貴殿は貴族であろうか?」


「いやいや。この船の長をしているだけだ」


「『船』?」


 え?なんで疑問形?


 ……あぁ、そうか。彼女は目覚めたのがこの医務室であり、外観は見ていないからな。そう思うのも不思議だろうね。


「ここは山頂じゃないのか?いつの間に下山したのだ?」


「おん?」


「マスター。失礼ながら。メルトレイ嬢、と申すよりこの地では空を飛ぶ船はまだ存在しない可能性があります。服に使われていた布の出来具合から中世期程度の文化レベルかと思われます」


 あ、忘れてた。そうじゃん。俺も服が古めかしいと思ってたわ。メンゴメンゴ。


「ここはまだ山頂だ。そんで宇宙船の中。宙を飛ぶ船の中だ」


「は?」


 素っ頓狂な声は騎士然とした彼女にはだいぶと似合わないな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る