心を捨てよ カオスに出よう

コラム

***

朝になり、わたしは目を覚ました。


布団から出ようと思えば出られるが、寒さと眠気で動く気になれない。


時計を見て、まだ登校するには早いのもあり、もう一眠りすることにする。


しかし、そうはさせてはくれなかった。


しばらくして朝帰りの母が帰ってきたのだ。


母は誰かと話しているのか。


怒鳴りながら家へと入ってくる。


うちは狭いアパートというのもあって、何を言っているのかはまる聞こえだ。


わたしには母が誰と話しているのかがわかる。


たぶん新しい男だ。


うるさくて寝ていられないので、わたしは布団から体を起こして制服に着替える。


母はすでに自分の部屋に入ったようで、わたしとは顔を合わせなかった。


いつものことだ。


わたしは台所へいき、食パンにケチャップとマヨネーズをかけて食べる。


いつもの朝食だ。


テレビがないので、中古で買ったノートパソコンの電源を入れ、前にダウンロードした動画を見ながら時間を潰す。


うちにはネット環境がない。


Wi-Fiなど当然ないし、わたしがアルバイトで貯めたお金で買ったノートパソコンもネットに繋げない。


うちからネットに繋がっているものは、母が持つスマホだけだ。


わたしがネットをしたいときは、中古で五千円ほどで買ったノートパソコンを持って休日に図書館へいく。


そこならWi-Fiが自由に繋げるので、無料でインターネットを楽しむことができる。


そのときにいろいろな動画をダウンロードしているから、家でもこうやって動画を見ることができる。


まあ、今はアップロードだけでなくダウンロード違法らしいが、そうでもしないとわたしから一切のエンターテイメントがなくなってしまう。


退屈は死だ。


少なくともわたしにとっては。


登校時間になったので、わたしは母にふすま越しに声をかけてアパートを出ていった。


いつものように家の近くの公園へ出ると、そこには妹が待っていた。


「おはよう、お姉ちゃん」


妹はわたしと同じ高校に通っているのもあって、別々に暮らすようになった後もこうやって一緒に登校している。


待ち合わせ場所は、今いる公園だ。


わたしたちは特別仲が良いというわけではない。


だが、他に会話をする人間がいないのもあって、今もお互いを頼りにしている。


「今日は道がひどいね」


昨夜に雨が降ったせいで道がぬかるんでいた。


水気をたっぷり含んでやわらかくなっているので、非常に歩きづらい。


わたしたちは、靴を汚しながら学校へと向かった。


到着後、わたしは妹と別れて自分の教室へと入った。


挨拶をしてくる人はいないので、真っ直ぐに席につく。


いつものことだ。


わたしは勉強ができないし、スポーツもダメなので学校が嫌いだ。


昔から友だちもいないので楽しいなんて思ったことはない。


だからいつも寝て過ごす。


先生も注意してこない。


母と同じく無関心だ。


むしろこんなわたしがいじめにあっていないのが不思議なくらい。


寝ていると様々な声が聞こえてくる。


前までいじめられていた外国人の子が、他の子をからかっている声が聞こえてくる。


「あんたらさ。あんまり調子に乗っていると先輩に頼んでやっちゃうよ。うちの先輩ってマジでヤバんだから」


その会話内容から予想できるのは、彼女が自分の国のコミュニティの力を借りて、クラスで威張り散らしていた男子や女子を脅していることだ。


昨日まで底辺だった者が今やトップだ。


うちの学校はこうやって今日もカーストが崩壊していく。


わたしはもちろんカーストの最下層だが、外国人の子のように下剋上したいとは思わない。


静かに生きていければそれでいい。


放課後になり、わたしはすぐに教室を出た。


校門の前では妹が待っていた。


いつものことだ。


「今日はどうだった?」


「別に、いつもと一緒だよ」


「そっか」


そして、わたしと妹は朝と同じようにぬかるんだ道を歩いて帰っていく。


代わり映えしない日常。


カオスは常に渦巻いているが、わたしにとってはいつもの毎日だ。


未来は明るくないが、けして暗くもない。


だってこれが平常運転なのだから。


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