第4話 母の位牌

 半時後、太郎と依織は連れだって家に戻ってきた。

 村人の一人が二人に気づいて指をさす。


「いたぞ」


 村人達が集まって太郎を取り囲む。庄屋が一歩前に進み出る。


「太郎。お前にはすまねえが……」

「水神の生贄にするのでしょ」

「お前、分かっていて戻ってきたのか?」

「お嬢さんから聞きました」

「依織!? おまえ、逃がそうと」

「お嬢さんを怒らないでください。俺は戻ってきたのだから」

「しかし、なぜ? 生贄にされるのだぞ」

「庄屋さん。俺はこの三年間、餓死するつもりでいました。しかし、いつも空腹に負けて庄屋さんの差し入れを食って生きながらえてしまっていた」

「そ……そうだったのか?」

「生贄にするなら、そう言ってくれたらよかったのに」

「いや、普通そんな事言ったら逃げるだろ」

「そうでしたね。ハハハ」

「なあ、太郎。本当にいいのか?」

「ええ。ただ一つだけお願いがあります」


 そう言って太郎は家に入っていった。程なくして出てきた太郎の手には位牌が握られていた。


「母の位牌です。俺が居なくなったら、誰も供養する者がいなくなる」

「分かった。それはわしが何とかする」


 庄屋は位牌を受け取った。


「それとですね。俺みたいな痩せ男じゃ、水神様も満足しないかもしれない」

「どうするというのだ?」

「酒を持っていきましょう」

「酒? しかし、水神様が酒を飲むなど聞いたことないぞ」

「お嬢さんに聞きましたが、ここの水神様は蛇紳だそうですね。ならば酒が好きなはず。きっと我慢していたのでしょう。何か事情があって」


 こうして、太郎は水神の祠まで連れて行かれた。普通なら生贄は手足を縛られるものだが、太郎は自分から進んで生贄になったのでそれは勘弁してもらった。

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