ぐちゃぐちゃ魔人ー四畳半のアジトより

広之新

第1話 ぐちゃぐちゃ魔人

 私はゲルト団のJ将軍だ。ゲルト団は地球征服を目指す悪の秘密結社だ。その幹部である私は本来なら都心の基地で多くの部下の指揮を執っているはずだが、新型コロナウイルスの蔓延で地方にある実家の2階の四畳半の部屋からリモートで指揮を執っている。ここで年老いた母と2人暮らしだ。リモートで部下と話していると、1階の母からよく茶々が入る。


「義弘! ご飯よ! 早く降りてきなさい!」


 最初はひどく恥ずかしかったが、もう慣れてしまった。


 さて我が宿敵ラインマスクを倒さねばならない。今までどれほどの魔人がやられ、作戦をぶち壊され、基地が破壊されたことか・・・何としてもリベンジしなければならない。それにはまず強力な怪人を作ることが肝要だ。

 だが今まで必死にアイデアを絞って作った魔人はことごとくラインマスクに倒された。これ以上、どうしたものか・・・そう考えていると、東京第五実験場の優秀な科学陣が素晴らしい装置を作り出した。名付けて、


「魔人融合マシーン!」


 これは魔人を合体させてより強力な魔人を作る装置だ。なんと斬新なアイデアだ。こんなものは今までになかっただろう。

 実は先日のラインマスクとの戦いで赤虎魔人と青馬魔人が瀕死の重傷を負ってしまった。いずれもが我がゲルト団の自慢の魔人である。このまま死なすのは惜しい。だから私はモニター越しに命令した。


「まずは赤虎魔人と青馬魔人を魔人融合マシーンに入れろ!」


 それは赤虎魔人も青馬魔人も望んでいることだった。あのラインマスクにリベンジしたいと・・・。

 科学者が2体の魔人をマシーンにいれ、スイッチを入れた。すると大きな音が響き渡り、閃光が走った。しばらくして科学者がマシーンを開けると、黙々と煙が噴出してその中から一体の魔人が現れた。

 右が赤虎魔人、左が青馬魔人というツートンカラーだ。パワーがみなぎり力強く歩いている。


「私がお前を名付けよう。お前はキメラ魔人だ。我がゲルト団の最高傑作と言っていい!」

「J将軍、俺は生き返りました。必ずラインマスクを倒してごらんにいれます。」


 キメラ魔人は恭しく頭を下げた。私はこれならいけると何度もうなずいていた。


 ◇


 その夜、就寝前に壁の鷲の紋章の目が輝いた。首領からの連絡だ。私はすぐに立ち上がってその前で敬礼した。

 

「J将軍。ラインマスク打倒の目途はついたか?」


 重々しい声が響いてくる。私は胸を張って答えた。


「はっ。我がゲルト団の優秀な科学陣が開発しました魔人融合マシーンが完成いたしました。」

「ほう。それは何だ?」

「複数の魔人を融合して新たな魔人を作り出せます。第1号として赤虎魔人と青馬魔人をマシーンにいれ、キメラ魔人を作り出しました。これならばさすがのラインマスクも手も足も出ぬはずです。」


 私は自信満々だった。それはどの作戦の時もそうなのだが・・・。


「そうか。よい報告を期待しているぞ!」


 そこで紋章の目の光が消えた。


「ふふふ。ラインマスクめ! 今度こそ貴様は終わりだ! ふふふ」


 本来なら高笑いするのだが、もう夜も遅い。あまりうるさくすると母から注意される。私は静かに笑ってそのまま布団にもぐりこんだ。


 ◇


 次の日、我々はラインマスクをおびき寄せようと。コロナワクチン接種会場を占拠した。今回も私はドローンから映像を見て指揮を執っている。

 その場所を選んだのは、もはやワクチンを打つ者は少なく、あまり迷惑にならないからだ。もっとも会場に来た者には我がゲルト団の科学者がワクチンを打っていたが・・・。

 するとそこに相川良が現れた。こいつは勘がいいのか、いつも我らの作戦の現場に現れて邪魔をしようとする。だが今回は本当にワクチンを打ちに来たようだ。仕方がないから拘束してワクチンを打ってやった。奴は注射が嫌いだったが、今では苦になっていないようだ。


「ゲルト団め! ワクチンを打ってくれたといって俺がお前たちを許しはしないからな。」


 相川良は吠えていた。うるさくて仕方がないから倉庫に閉じ込めた。


「さあ、ラインマスク! いつでも来い!」


 そうして待っているとラインマスクが現れた。戦闘員を次々に倒していく。


「ゲルト団め! ここから出ていけ!」

「ふふふ、よく来た。ここがお前の墓場だ!」


 私はモニター越しに声を上げた。


「なんだと!」

「見るがいい。ラインマスク打倒のために生まれた魔人を!」


 そこであのキメラ魔人を登場させた。


「どうだ! すごいだろう!」

「おのれ! こんな魔人を・・・」

「ふふふ。行け! キメラ魔人よ!」


 キメラ魔人はラインマスクに向かっていった。赤虎魔人のどう猛さと鋭い歯と爪、青馬魔人のスピードとスタミナを受け継いでいる。ラインマスクを追い詰めていった。


「いいぞ! キメラ魔人!」


 だがラインマスクの起死回生のラインキックの前に敗れてしまった。


「おのれ! 覚えておれ!」


 我らは瀕死のキメラ魔人とともに引きあげていった。今回も作戦は失敗だ・・・だが私はあきらめていない。


「魔人を融合するのは確かに有効だった。だが何かが足りない。それは・・・」


 私は考え込んだ。そして一つの結論を得た。


「そうだ! いろんな魔人を融合して弱点を補えばいい。これならいける!」


 私は早速、東京第五実験場を呼び出し、我がゲルト団の優秀な科学者にこう命じた。


「魔人融合マシーンにキメラ魔人を入れろ! そして他には・・・」


 そこには様々な魔人のパーツが保管してある。このパーツを入れてもちゃんと融合できるそうだ。さすがはゲルト団の科学力だ。


「空を飛ぶ能力にハゲタカ魔人の翼を、鋭い刃の武器にカマキリ魔人の腕を、やはり水中攻撃能力が欲しいからサメ魔人のヒレを・・・」


 こんな風に魔人融合マシーンに入れていった。見た感じはぐちゃぐちゃだ。だがそれでもかまわず装置を動かせた。


「これで最強の魔人が現れる!」


 私が期待しているとようやく融合が終わった。煙とともに現れたのは・・・つぎはぎだらけのような魔人だった。


(なんだ! これは! ぐちゃぐちゃだ!)


 私はそう言いかけて、それを押し殺した。見た目はぐちゃぐちゃしているが、性能は素晴らしいに違いないと・・・。するとそこに警報が鳴り響いた。


「何事だ!」

「ラインマスクが侵入しました!」

「なんだと!」


 後をつけてきていたのかもしれない。何と姑息な奴だ。しかしこれで手間が省けた。この素晴らしいぐちゃぐちゃ魔人、もとい、キメラ魔人2世をぶつけることができる。


「行け! キメラ魔人2世よ! ラインマスクを抹殺するのだ!」


 だがもうそこにラインマスクが来ていた。キメラ魔人2世は襲い掛かったが、すぐにかわされてしまった。ラインマスクは魔人にかまうことなく、魔人融合マシーンにキックやパンチで破壊していった。せっかくのマシーンがこれでパーだ。


「何をしている! キメラ魔人2世!」


 私はモニター越しに叫ぶが、キメラ魔人2世の動きは鈍い。攻撃のスピードも鋭さもない。これでは普通の魔人以下だ。だからキメラ魔人2世は簡単に倒されてしまった・・・。


 ◇


 私は作戦の失敗をじっくり考えようとコーヒーを入れて机に座った。私は最近、コーヒーに凝っている。様々な品種をブレンドして楽しんでいるのだ。今回は特別にいろんな品種ををブレンドした。


「今回の失敗は・・・」


 コーヒーを一口、飲んだ。


「うわっ!」


 私は吐き出した。せっかくのブレンドしたコーヒーがまずいのである。いろんな品種をごちゃまぜにしたのが悪かったのか・・・。


「そうか・・・やはり魔人をぐちゃぐちゃ混ぜたのが悪かったか・・・。コーヒーのブレンドと同じように吟味しなければ・・・」


 私は違いが判る男のように大きくうなずいていた。

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