3分で読める物語。

でい

最期のヒカリ

(お題:鹿、マッチ、天の川)


 2020年10月。

 ロジャー・ペンローズ博士を含む三名にノーベル物理学賞が授与された。



 時と場所が変わり、2033年。


「わ、ここの足場崩れるよ。気をつけて」


「振り返るなって。ヘッドライトが眩しくて足元が見えな――うわっ」


「ほらね、言ったじゃん」


「おまえなぁ……」


 草木も眠る深夜未明、高校近くの裏山。

 山といえば山だけど、山というほど高くもない山で。僕たち地元民にとって、遠足などで重宝するお馴染みの山道を、これまた気心の知れた幼馴染と二人きりで登っていた。


 そんな幼馴染の枝里エリは、先導する足を止める。


「ねえ、鹿がいるよ。えっ、目が光ってる! こわぁ……」


「枝里のライトが反射してるんだよ。鹿をロボットかなにかだと思ってんの」


「野生動物が全部ロボットだったとしても驚かないけどね。触ったことないし」


「たしかに」


 妙な世界観を持つ枝里だけど、その意見には賛同する。当たり前と受け入れていた現実が、受け入れがたい真実を内包していると、僕はすでに知っていた。


 静かにたたずむ鹿を横切り、暗闇の山道をふたつの揺れるヘッドライトで照らしながら進む。しばらくすると展望広場が見えてきた。


「やっぱり、星を見るならここが一番だね」


 雲ひとつない夜空に無数の星が広がり、中心に一本の淀みないが流れていた。

 ヘッドライトを下ろして、その大河を眺めながら山頂の広場を柵まで歩く。そこから見下ろす景色は、街灯などの人工光で頭上の星空と同じように明るい。


「昔も一緒に来たよね。こんな夜中にさ」


「あとでめちゃくちゃ怒られたよな。でもあのとき、七夕の日じゃなくても天の川が見られるって、初めて知ったんだよなぁ」


 遠くからパトカーのサイレンが律儀に響く。深夜にしては異様なほど騒々しい。


 ブラックホールの誕生が証明されて、たった十数年。その間に研究は加速度的に進み、検証と証明が成されて、世界情勢は急展開を迎えていた。地球内部の重力源が地球を丸ごと飲み込んで消滅させるまで、もうさほど時間がないと知ってしまった。


「もう少し生きていられたら、わたしの夢も叶えられたのかな」


「なんだって叶えられただろ枝里なら」


 2033年、深夜未明。世界中の光が一斉に消えた。

 見上げた天の川はを擦った瞬間みたいに眩しく浮かび上がり、地球の終わりと共に、煙のように消えた。




 ————


 ロジャー・ペンローズさんは、相対性理論によってブラックホールの形成が証明されることを発見したそうです。そこから着想して妄想しました。


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