第3話 雷雨の夜の子犬

 以前、或る冬の雷雨の夜、庭から「くーん、くーん」と鳴く声がしたので、外を見ると、どこからか迷い込んできたのか、首輪をしていない子犬が軒下でうずくまっているのが見えた。ガラス戸を開けると、その子犬がうれしそうに中に入って来ようとする。当時、筆者は犬を家の中で飼うという感覚がなく、部屋が汚れてしまうじゃないかと、ミルクを入れた皿を外に置いて、子犬を戸外に押し返した。夜の間、子犬は軒下で震えていたようだった。

 翌朝、空はキレイに晴れていた。朝一番に家を出る父の出勤時に、その子犬はぴょんぴょんと跳びはねながら、父の後をついて出て行った。

 その夜、家に帰ってきた父に訊くと、初めはついてきていたが、駅までの途中のどこかで、いつの間にかいなくなった、ということだった。

 結婚して今では、当然のように家の中で、小型犬を飼っている筆者だが、あの子犬はどこに行ったのだろう、可哀そうなことをしたなあ、と少し悲しいような何とも言えない気持ちとともに、時々思い出したりする。(了)

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