エピローグ:君のそばにいた。文字通り万年の筆として
フゥ……今日はこれで終わりみたいだね。
お疲れ、ご主人様。
私は万年筆。私のご主人様は、執筆が趣味の高校二年生。
ファンタジー、ミステリー、恋愛、ドラマなど、幅広いジャンルに挑戦しているみたいだけど、なかなか才能が開花しないみたい。
文章の読み書きが好きなご主人様は高校入学祝いで私を買ってもらい、それからほぼ毎日文章を書いている。
ネット小説が普及した現代で、あえて原稿用紙で二年近くも書き続けているご主人様。
私は言葉を発せないから理由を聞けないけれど、個人的にはこういう風に思っている。
ご主人様は、「文字を書く」時の感触がすごく好きなんじゃないかな。
筆先が紙に触れるとき、持ち手の指にわずかにかかる圧力。筆をスライドさせると、インクが滑らかに軌跡を描く。
その感触がご主人様に伝わったとき、ご主人様はすごくいい笑顔になるの。
私は、その笑顔を見るのが好きなの。
だから私はそんなご主人様を、文字通り万年もそばにいる。
え? 考え方がヤンデレだって? 仕方ないでしょ。それが万年筆として生まれた者の使命だもの。
ねえ聞いて、最近、ご主人様の機嫌がすごくいいの。
表情には出てみないみたいだけど、私にはわかる。
ご主人様って筆は遅いほうなのに、なぜか最近はスラスラ進むのよね。
何かいいことでもあったのかな?
……ううん、これからいいことが起きるんだ。
ご主人様が最近書いている短編集が、ある有名作家の目に留まったみたいなの。
近々、とある雑誌にご主人様の作品が連載されることになった。
タイトルは「付喪神の言い訳」。付喪神の視点から人間の生活を描いた短編集だって。
もう四つの話が連載決定しているみたい。
たしか、シャッターと、指輪と、銀貨とノートパソコン……だったかな?
全部ご主人様が考えて、私が記した物語。
ご主人様の作品が、後世に残されるその瞬間を、私は間近で見る。
……こんなにうれしいことはないよね。
あ、ページの前のそこの君。
「付喪神の言い訳」を読んでくれてありがとう。
私のご主人様・イトが作った物語、どうだったかな?
また機会があったら、今度はもっとすごい物語を見せてあげるからね。
ご主人様が思い、私が書いた物語を。
付喪神の言い訳、完
付喪神の言い訳 作:イト(第4回空色杯応募作品) 江葉内斗 @sirimanite
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