ある銀貨の、巡り巡って元の居場所へ戻る話

 私は銀貨。今日は私の人生(?)について語らせてもらおう。


 私はイギリスで産まれ、巡り巡ってある旅人の財布に入った。

 旅人はヨーロッパ各地を旅していたのだが、ある日旅人が財布を取り出し金を出そうとした表紙に、私が財布の中から飛び出て転がってしまった。

 旅人は、まあ銀貨一枚程度困らないと思ったのか、拾いに来なかった。


 そして私は、ある一人の子どもに拾われた。

 子供は私を手に取って、じっくり見るとこう言った。


 「なあんだ、このお金偽物じゃないか」


 そう言って子供は私を放り投げた。

 それから、すぐにある男が私を拾って、嫌な笑みを浮かべた。

 これ以降、私は人目のつかない薄暗い場所で使われるようになった。

 皆が私を贋金にせがねだと思ったからだ。

 若い私はつらかった。なぜなら私は生まれた国では、確実に流通している通貨だからだ。

 

 そのうち、私はある女の手に渡った。

 女は善人で、私を使うことに罪悪感を感じた。

 そこでもう私が使われないように、穴をあけ、ひもを通してペンダントにして娘に与えた。

 娘は数年間ペンダントを使い続けたが、ある日突然、ぷつりとひもが切れ、どこかへ転がってしまった。

 しばらくして誰かに拾われた私は、また人から人へ渡された。



 最後に、私は一人の青年の手に渡った。

 青年は言った。

 「おかしいなあ、これは僕の国のお金なのに、なんで皆偽物だって言うんだろうか」

 彼は宴会の場で私を取り出すと、皆の前で見せ、私をほめたたえた。

 皆が私に拍手を送った。

 こうして、私は元のいるべき場所に戻ることができたのだった。


 どんなものでも、どんなに苦しい目に会おうと、巡り巡った果てに元の居場所に戻る。

 ……人間よ、君たちもそうではないか?

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