二人の関係に舞い降りた悪魔――選択肢は愛か、絶望か

下等練入

第1話

(見てる、見てる)


 凛乃りのからの刺さるような視線を浴びながら、私――文香ふみかはバレないよう小さく肩を震わせた。

 彼女が私を好きだと知ったのはつい数週間前。

 偶然見つけた彼女の裏垢で大量に私への気持ちがつづられていた。


 両思いだと知った時は飛び跳ねるほど嬉しかったが、この関係を私の方から発展させるわけにはいかない。

 私から告白したら、彼女は自己肯定感の低さから自ら身を引いてしまうだろう。

 だからこの関係は凛乃自身に育ててもらわないと。

 ただそうは言ってもじれったいし、早く付き合えるに越したことはないけど。


 そんなことを考えながら視線の端で彼女を見ていると、誰かが彼女に話しかけた。


(邪魔なんだよ。そこにいたら見えないじゃん)


 バレないよう心の中で悪態をついたが、話し自体はすぐ終わったらしい。

 ただその女はどこかに行くのではなく、私の方に来て口を開いた。


「ねー嶌田さん、私と付き合ってよ!」

「え?」


(意味わかんないんだけど)


「ごめ――」


 そう言いかけた時、耳元で囁かれた。


「ねー嶌田さんは凛乃ちゃんと付き合いたい?」

「は? なにそれ?」

「それとも壊されるのがいい?」


 彼女の手には凛乃の裏垢が映っていた。

 もう一方の手はしっかりと彼女を指さしている。

 どこまでバレてるのかわからない。

 この状態で断ったら碌なことにはならないだろう。


(ごめん)


 私は心の中で凛乃に謝る。


「――わかった、いいよ。付き合おう」

「ありがとう、二人きりで話したいし、中庭行かない?」

「わかった」

「大丈夫、私は二人を付き合わせたいだけだよ」


 おもちゃを目の前にした子供の様に彼女は笑う。

 差し出された悪魔の手を取って彼女に従う。


「え、ねえ文香」

「ごめんね凛乃」


 凛乃は不安そうにこっちに駆けよってきた。

 ただ私は振り返らず歩く。


 凛乃からの視線はずっと心地いいものだと思っていた。

 背中いっぱいに絶望の孕んだ視線を向けられるまでは。

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二人の関係に舞い降りた悪魔――選択肢は愛か、絶望か 下等練入 @katourennyuu

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